「昆虫博士入門」の紹介
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昨日はレンリソウについて書きましたが、このような絶滅が危惧されている植物について、どのように保護していけるのかを、門外漢の無責任な発言にはなりますが、少し考えてみたいと思います。
生物がその場に存続していくためには、現在生きている環境が維持されることが必要です。 この場合の環境とは、土質や日射量などの無機的な環境も、関係する他の生物などの有機的な環境も含みます。
よく自然保護というと、人によって荒らされないようにその場に人の手が入ることを禁じ、そこにいる生物を守ろうとする手段がよく講じられます。 極相林を保全する場合など、そのようにすることが必要になる場合もあるでしょうが、レンリソウの場合はどうでしょうか。
レンリソウは草地に生える植物だと書きました。 この草地は安定した草地でなければなりません。 急にできた草地に他の植物に負けずに侵入できるような“逞しさ”はレンリソウにはありません。
昨日の記事で、近畿地方で現在レンリソウの見られるのは和歌山県南部と京都府南部の2ヶ所だと書きました。 じつはいずれも河川の堤防の法面です。 堤防は、大きな木が育ち根が張ると、そのために堤防に弱い部分ができると言われ、定期的に草刈りが行われ、樹木が育たないようにしてきた場所です。 つまり定期的に人の手が入ることで同じ環境が保たれてきた場所です。
レンリソウを守るためには、草刈りが必要です。 しかしその草刈りの時期が大切です。 草刈りによってレンリソウがダメージを受けずにレンリソウに光が十分当たる環境が維持できるようにするためには、どの時期が最適なのか、検討する必要があるでしょう。
レンリソウの育っている環境をよく理解することも必要でしょう。 レンリソウと共存し助け合ってレンリソウの育つ環境を形成している植物や花粉媒介をしている昆虫などはどのようなものなのか、またその環境を維持し、さらに向上させていくにはどのような配慮が必要なのか、レンリソウという特定の植物の保護活動をとおして、自然を広く知る楽しみをますます深めていくことも可能なのではないでしょうか。
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このブログに載せた小さな虫のいた場所として、ヤツデの葉の裏とアラカシの葉の裏がよく登場します。 アラカシは身近にたくさんあるからですが、とにかく小さな虫たちを見るには、ヤツデの葉の裏がいちばん効率的ではないでしょうか。
ヤツデの葉の裏に小さな虫が多いのは、虫たちが越冬場所として、風が吹いてもあまり揺れず、鳥たちの目から逃れられる場所として、硬くて大きな葉を求めているからでしょう。 ですからヤツデの少ない場所では、アラカシなどの硬い葉や、柔らかくても地面近くであまり風に揺れないような大きな葉などでも、たくさんの虫が見つかる場合があります。
上のような理由で、ヤツデのなかでも、葉が多くて重なり合っているようなヤツデに多くの虫が見られますし、若い葉よりは古くて硬くなった葉に多いようです。 下はこのような良い条件にあったヤツデの葉の様子です。(写真は3枚ともクリックで拡大します。)
ハラビロクロバチ(5頭)
ヤノズキンヨコバイ(3頭)、クロスジホソサジヨコバイとヒメヨコバイの一種
左より、ヒメヨコバイの一種、アオモンツノカメムシ、クサカゲロウの仲間
(少し動き始めています)
このようなたくさんの虫がいた場合、どれから撮ろうかと迷っているうちに虫たちが動きだし、結局どれもきちんと撮れなかったということがよくあります。
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デジカメで昆虫などを撮る人の増加など、マクロ撮影に関する関心が高まってきているようです。 多くのコンパクトデジカメで1cmマクロが可能になってきましたが、近づいて撮れることと、大きく撮れることとは微妙に違います。 オリンパスの TG-2 のスーパーマクロモードは、単体で“顕微鏡並みの撮影”が可能(オリンパスのホームページ)ということで注目されているようです。
このブログの左にある「人気記事ランキング」でも、オリンパスのTG-2 スーパーマクロの記事が、2013.12.29.現在で2位になっています。 なお、人気記事ランキングは最近の4ヶ月でアクセス数の多かった記事です。
上記の記事は、今年の2月25日に載せたものですが、ここではその後のTG-2スーパーマクロによる撮影に関して、特に光源の工夫と深度合成についてまとめておきます。
● 光源の工夫
何をどのように撮りたいかで、カメラに対する要求は違ってくるでしょうが、私の場合は、TG-2スーパーマクロモードにおける最大の不満は、フラッシュが使えないというライティングの問題でした。(なぜライティングが必要なのか、なぜフラッシュが使えないのかは、前回のTG-2の記事をお読みください。)
そこで、身近にあったものをかき集め、下のような装置を工夫しました。
上の図の●が被写体です。 光源はLEDのヘッドランプを使いました。 ここからの光を、直接カメラのレンズに入らないようにして被写体を照らすため、使わなくなった豆電球の懐中電灯を分解して取り出した反射板を使用しました。
実際の写真を下に載せておきます。
上が光源として使用したヘッドランプです。
上の写真の右のように、ヘッドランプを上に向け、その上に台(写真では黒い円形のプレート)を載せ、その上に被写体を載せます。 上の写真の被写体は、白い紙の上の褐色の荷造り用テープの切れ端にくっつけられた小さな蜂です。 そしてこれの上に写真の左の反射板を被せ、この反射板の穴の真上にレンズが来るようにTG-2をセットします。
このようにして撮ったのが下の写真です(トリミングしています)。 体長は1.8mmで、ヒメコバチ科の一種だと思います。(写真はクリックで拡大します。)
● 深度合成について
小さいものを大きく撮ろうとすると、ピントの合う奥行き(被写界深度)は浅くなります。 上の写真では胸部の背面にピントを合わせてありますが、それよりほんの少し低い位置にある翅にはピントが合っていませんし、それよりさらに低い位置にある脚は消えかけています。 この被写界深度は、デジイチよりも、CCDの小さいコンデジの方が深いのですが、それでもこれくらいの倍率になると、この程度です。
最近は小さなものをくっきりと写す方法として、深度合成がよく使われるようになってきました。 昨日の記事(こちら)の最後にも深度合成した写真を載せています。
深度合成は、焦点合成、多重焦点などとも呼ばれていて、同じ被写体を、距離を少しずつ変えて撮り、複数の写真のピントの合っている部分をコンピュータのデジタル処理によってつなぎ合わせ、1枚の写真にする方法です。 この処理をするソフトは、いろいろ販売もされていますが、私はフリーソフトの CombineZP を使用しています。
これは例えば上の写真の場合で書けば、胸にピントの合った写真と翅にピントの合った写真から、胸にも翅にもピントの合った写真を得る方法です。 2枚の写真からでも深度合成できます(例えばタマバエの2枚目の写真)が、深度合成らしい写真を作ろうとすれは、少しずつピントの合っている場所の異なる写真を何十枚も、場合によっては100枚以上も準備します。
この深度合成をTG-2で撮った写真で可能かどうかを確かめてみました。
結果は、なかなか満足のいく写真を得ることはできませんでした。 その最大の理由は、TG-2にはリモコン撮影の機能が無いということでした。
あたりまえのことですが、TG-2で写真を撮る時にはシャッターを指で押します。 カメラはもちろん三脚に固定していますが、これくらいの倍率になると、このシャッターを押し込む時にカメラが動き、被写体の位置が微妙に変化します。 セルフタイマーを使ってカメラに手を触れないでシャッターを切ろうとしても、カメラを動かさないように最新の注意を払い、セルフタイマーを何十回もセットすることは耐えられません。
最近のコンデジには、スマートフォンでカメラを操作できるものがあります。 もしTG-2にスマートフォンからシャッターを切ることのできる機能がつけば、もしかしたら、この問題はクリアできるかもしれません。
もうひとつの問題は、最初に載せた照明装置では、被写体を平面に置くしかなく、撮りたい方向から撮ることはできないという点です。
昨日の記事の最後に載せた深度合成の写真(こちら)は、46枚の写真を合成して作成しています。 この46枚の写真は、上記のような理由で、TG-2 ではなく、デジイチで撮りました。 被写体は細い針の頭に軽くくっつけてあるので、いろんな方向から撮ることができます。 また、カメラに触れずにシャッターを切るために、カメラ用のリモコンを使用しています。 たいていのデジイチはリモコン使用可能です。
一眼レフのカメラは、中にミラーがあり、シャッターを切った瞬間にこのミラーを跳ね上げ、ファインダーを通して見ていた像を撮像素子に送るしくみになっていますが、このミラーを跳ね上げる時に小さな振動が生じ、これがこのような小さなものを撮る時にはブレの原因になります。 しかしデジイチにはミラーアップ撮影機能が準備されていて、シャッターを切る前に予めミラーを上げておくことができ(ファインダーを覗いても真っ黒です)、カメラ用のリモコンでは、このミラーアップ撮影もできるようになっています。 なお、レンズ交換式アドバンスカメラにはミラーがありませんから、この心配はありません。
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上はナカウスエダシャクの顔を正面から撮ったものですが、今回は複眼に注目したいと思います。
暗い所でフラッシュを使用して人を撮影すると、目が赤く写っていまったり、このブログでは犬の“青目”についても書いています。 多くのほ乳類の目は、このように暗い所でフラッシュなどを使用すると、光ります。 これに対して昆虫では、光る複眼は美しいので、このブログでもムラクモハマダラミバエなどを取り上げていますが、総体的にはあまり光りませんし、特に蛾の複眼は光りません。 上の写真も、フラッシュを使用していますが、光ってはいません。
犬の“青目”の所でも書いたように、ほ乳類の目が光るのは、光を有効に利用して周囲の様子(=餌などの情報)を得るためです。 一方、昆虫の複眼が光りにくいのは、瞼の無い複眼が光ると、見つかりやすく、餌にされてしまう可能性が高くなるからではないでしょうか。
光源でないものが光るのは、光を反射しているからです。 反射している場合でも、乱反射であれば、そんなに光っているようには感じません。 つまり、光っているように見えるのは、顕微鏡的レベルで表面が滑らかな場合でしょう。
昆虫の複眼が光りにくいのは、複眼が多数の個眼の集合体であり、各個眼の中央は、レンズとしての役割を果たすため、盛り上がっているためでしょう。 つまり、複眼の表面は凸凹しています。 また、昆虫の複眼には、個眼の間に毛の生えているものが多い(例えばこちらの1枚目の写真)のですが、この毛も乱反射に役立っていると思わます。
初めに書いたように、昆虫の複眼のなかでも、特に蛾の複眼は光りません。 これは蛾の複眼の表面が、ナノスケール(下の※)の微小な突起で覆われた状態になっているからです。
※ 1nm(ナノメートル)=0.001μm(マイクロメートル)=0.000001mm
生物がもつ優れた性質を、新たな材料や製品の開発に生かそうという取り組みが、多様な分野で行われています。 これらは biomimetics(バイオミメティクス:生物模倣)と呼ばれています。 このブログの記事にしたゴボウの実をヒントに作られた面ファスナー(マジックテープ)も、初期のバイオミメティクス製品の1つです。
最近の実用的なバイオミメティクス製品の1つに、光をほとんど反射しない無反射フィルムがあります。 これは蛾の複眼表面の構造を模倣したもので、「モスアイ・フィルム」と呼ばれています。 モス(moth)は蛾、eye(アイ)は眼ですから、モスアイ・フィルムは「蛾の眼フィルム」という意味になります。
透明フィルムは今までもいろいろ作られていますが、従来の透明フィルムは表面が光りました。 三菱レイヨンは「モスマイト」の商品名で、無反射透明フィルムを販売しています。
テレビ画面のサイズが大きくなると、天井の照明などの映り込みが気になります。 シャープは大日本印刷と共同開発したモスアイ・フィルムを貼ったモスアイ・パネルのテレビを、昨年の冬から販売しています。 モスアイパネルは、外光の反射を大幅に抑え、パネルからの光はほとんど拡散させずに透過するため、本来のコントラストを引き出すことができるとのことです。
(12/3追記) 言い訳と補足
夕菅さんから、夜の蛾の眼はヘッドライトの光で光るというコメントをいただきました。 夕菅さんのブログには、夜に花に来ているいろんな蛾の写真が載せられていて(こちら)、たしかによく眼が光っています。
上で私が「蛾の眼は光らない」と書いたのは、以下の理由によります。 私のほとんどのマクロ撮影では、フラッシュを使用しています。 また、できるだけ眼にピントを合わせるようにしています。 私の写真はほとんど昼間に撮ったものですが、このようにして撮った場合、蛾の眼は光りませんし、フラッシュと眼の位置関係をしっかりチェックしておかないと、眼の所が真っ黒になってしまいます。 他の昆虫の眼に比較して、蛾の眼の反射はほんとうに少ないと思っています。
ただし、全く反射が無いとは書いていません。 蛾の複眼からの反射が全く無いのなら、私たちは蛾の複眼を見ることができません。 私たちが蛾の複眼を認識することができるのは、蛾の複眼の反射光が私たちの目に届いているからです。 ただその反射光の量が、他の昆虫の複眼の反射光より少ないということです。 ですから、強い光を当てると、蛾の複眼も光るでしょう。 また、私たちの目の瞳孔が暗い所で広がるように、蛾の複眼も昼と夜とでは何らかの違いが生じているのかもしれません。
ところで、蛾と一口に言っても、蛾の種類はとても多く、その生態も簡単にはまとめられません。 昼に活動する蛾もいれば、夜に活動する蛾でも、光に集まる蛾もいれば、光をほとんど無視する蛾もいます。 花に来る蛾もいれば、樹液に集まる蛾もいます。 蛾の複眼の機能も、その生態に応じて異なるはずで、複眼表面からの光の反射も異なると思われます。 生態と関連付けて眼の反射を調べてみても、おもしろいかもしれませんね。
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2007年8月6日に載せた記事「 ハスの葉の上で水が沸騰 !? 」の動画のリンクが外れていましたので、改めて動画を挿入し、別の写真や動画も付け加えました。
本日は忙しくて、それだけ。 新たな記事の追加はありません。 なぜ忙しかったのかは、お墓参りもありましたが、大きな理由はこちら。
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スベリヒユの閉鎖花について、質問をいただきました。
閉鎖花というのは、花が開かないままで種子を作る花です。 閉鎖花に対して、“ちゃんと”咲く花を開放花といいます。
閉鎖花といってもいろいろで、例えばスミレ類などのように開放花とは異なる閉鎖化をつくる植物もあります(下の写真)し、オシベもメシベも成熟しているのに花を開くだけの“元気”が無いといったケースもあるでしょう。
タチツボスミレの閉鎖花の果実(2013.6.8.撮影)
この場合、花が開くか開かないかの前に、その植物が自家受粉を拒否するのか許すのかという問題があります。 自家受粉とは、メシベに同一の花のオシベの花粉がついて種子ができることを言います。
植物の中には、メシベの柱頭に同じ花の花粉がついても、自己の花粉の花粉管を伸ばすことを抑制する物質を出し、自家受粉を不可能にしているものもあります。 自家受粉が許されないなら、閉鎖花の意義はありません。 閉鎖花は自家受粉を積極的に行うためのひとつの手段でしょう。
なぜこのような自家受粉を拒否しようとする植物も、自家受粉を積極的に行おうとする植物もあるのか、それは、自家受粉には長所も短所もあるからでしょう。
自家受粉の長所:
花粉媒介をしてくれる昆虫などがいなくても種子生産ができる。
自家受粉の短所:
さまざまな形質を持った多様な子孫を作り、より環境に適応した子孫誕生に期待するという有性生殖の意義が制限される。
この問題をさらに掘り下げると、有性生殖の意義や、生物に寿命があることの意義などにも関ってきますが、とりあえずはここで止めておく事にします。
スベリヒユの花と種子
スベリヒユに話を戻します。 スベリヒユについて閉鎖化の存在を確認する実験を行ったわけではありませんし、文献も見当たりませんでしたので、以下は私見になります。
スベリヒユの場合は、開花している時間が短いことや、花のつくりを見るとオシベとメシベが接していることからも、自家受粉している可能性が高いと思います。 またスベリヒユの生えている場所を見ても、そんなに昆虫相が豊かだとは思えません。
スベリヒユは、昆虫に花粉を運んでもらうことを期待しながらも、花粉を運んでもらえない場合は自家受粉で種子を生産し、秋に気温が低くなるなど、花が開けない場合には、閉鎖花のようなふるまいをするのではないでしょうか。
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コナラの白っぽい新緑はなかなか美しいものですが、この時期はたくさんの虫たちがコナラに集まる時期でもあります。 あるものは樹液を吸いに、あるものは新葉を食べに、あるものは新葉を幼虫に食べさせようと産卵に、あるものはそれらの虫に寄生または捕食のためにと、さまざまな目的で虫たちは集まります。
これらの虫の多くは小さくて目立ちませんが、枝の前でじっとしていると、いろんな虫たちが見えてきます。 ムシクソハムシは、葉の上にいる姿からは想像できないようなすばらしい飛行術を披露してくれますし、いろんな蜂たちも忙しそうに動き回っています。
しかし、忙しく動き回る虫たちの様子を撮ろうとすれば、なかなか種名の分かるような写真は撮れません。 上はハバチの仲間かもしれませんし、下はヒメバチの仲間だと思いますが、いずれもそれ以上は分かりません。
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2月8日に、オリンパス TG-2 というコンパクトデジカメが発売されました。 このカメラは、防水防塵、耐衝撃、耐低温、GPS・電子コンパス搭載などの特徴がありますが、私の最大関心事は小さな虫を大きく撮れるということで、購入し、使ってみました。
オリンパス TG-2 にはスーパーマクロモードというのがあって、画質劣化をおさえて光学ズームより大きく撮れる超解像ズームというのがついています。 これを使うと、ほぼ3.2mm×2.4mmの範囲(私の実測で、正確ではありません)が、3968×2976ピクセルの画像となります。
今までの私の手持ちの機材でこれと同様の倍率を得るには、3倍テレコンに28mm広角レンズを逆向きに付けていました(方法a)が、これだと暗いし、写せる面積も狭くて被写界深度も浅く、被写体を探すのもピント合わせも大変でした。(ですから、ほとんど使っていません。)
TG-2 のスーパーマクロモードでは、カメラの液晶モニタには電気的に増幅された明るい像が映し出されますし、ズームがついていますから、被写体を探すのもたいへん楽です。
しかし、小さなものを大きく撮るのは、そんなに簡単ではありませんでした。 最大のネックになるのは、最大倍率を得る場合の被写体とレンズとの距離は1cmしか無いということでしょう。
このカメラは光軸折り曲げ式ズームですので、この距離は被写体とカメラ本体との距離ということになります。 カメラで被写体を覆い隠してピントを合わせることになりますから、活動している虫に1cmまでカメラを近づけて撮ることは諦めなければならないようです。
次にライティングです。 小さな面積をこれだけ拡大して撮るということは、そこに当たっている光を広げることになりますから、かなり暗くなります。 シャッタースピードを遅くするとブレますし、ISO感度を上げるとノイズが多くなります。 しかし被写体とレンズとの距離は1cmしかありませんから、フラッシュなどの光を当てようとしても、横からしか当てられません。 きれいに撮ろうとすれば、レンズに近い位置から光を当てる必要があります。 そういうことも考慮されてのことだと思いますが、このカメラには、フラッシュとは別に「スーパーマクロLED」というのが付けられていて、シャッター半押しで光らせることができます。 しかしこれが中途半端です。 被写体とカメラ本体との距離を1cmまで近づけるとかなり横からの光になり、光量も不足ぎみです。 もっとレンズの近くに持って来るべきでしょう。
メーカーもこの問題には気付いているようで、フラッシュの光をレンズの周囲に導く仕様のリングライトを参考商品として作成しています。 しかしまだ商品化されていないところをみると、まだ性能が十分ではないのでしょうね。 TG-3(?)の発売に合わせて、別売のシステムアクセサリーとして販売されるのでしょうか。
つぎに、これはコンパクトデジカメの宿命でしょうが、フィルムに相当する撮像素子は 1/2.3型、つまり約6.2mm×4.6mmです。 今私の使っている1眼デジカメは、フルサイズではありませんが、それでも撮像素子は23.6mm×15.8mmあります。 小さな面積に当たる少ない光の情報量で画像を作るわけですから、やはり限界があります。 特に感じるのは階調表現で、上に書いた光を横から当てると明暗差が大きくなることと関連して、なかなかいい画像が得られません。
もうひとつ、このカメラにはファインダーはありません。 ピント合わせはもちろんカメラが自動的にやってくれますが、浅い被写界深度ですので、思い通りの所にきれいにピントを合わせるには微調整が必要です。 それにはピントを固定してカメラを少し前後させればいいのですが、液晶モニタでは細かいピントの確認がとても難しくなります。
いろいろ不便な点も書いてきましたが、メーカーとしてはたくさんのユーザーに購入してもらわねばならず、ほんの一握りのスーパーマクロファンのためだけにカメラを設計するわけにはいかないでしょうから、スーパーマクロはカメラの持つ多機能のうちの1つに限定されるのは止むを得ないことでしょう。 しかし単独でこんな顕微鏡的な写真の撮れるカメラははじめてです。
最近はスマートフォンや携帯などで写真を撮る人が増え、コンパクトカメラは何らかの特徴を持たさないと売れなくなってきています。 このようなスーパーマクロも1機種発売されれば、他のメーカーからも似た機能を持ったものが発売されるでしょうし、今後もいろいろ改良されると思いますので、それに期待したいと思います。 私も、無理せず気長に撮り方を工夫したいと思います。(上に書いたように、野外で動く虫は撮りにくいですし、今後このブログが TG-2 の写真でいっぱいになることは無いでしょう。)
下は TG-2 で撮った、体長2mmのヒメコバチ科 Apleurotropis sp.です(トリミングしています)。
それと個人的には、これだけ拡大して撮れるなら深度合成を!と試みてみたのですが、何十枚もの深度合成用の写真を用意するには微動装置(持っていません・・・)が必要だということが分かりました。
下は、たった2枚で深度合成したヒメコバチ科Tetrastichinae亜科の一種(これも体長2mm)の写真です。 ライティングなど課題が多い写真ですが、最初の深度合成記念として載せておきます。
※ その後、 TG-2 の使用に関して、ライティングも工夫しましたし、微動装置を購入して深度合成にもチャレンジしました。 これらの取り組みについては、こちらに載せています。
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上は左から温州ミカン、紀州ミカン、タチバナです。 柑橘類は種類が豊富ですが、今回はこの3種について書いてみることにします。
まずは温州(ウンシュウ)ミカンから。
中華人民共和国浙江省に温州(ウェンジョウ)市があります。 温州ミカンは名前からして、ここと関係がありそうですが、じつは全く関係が無く、鹿児島県で偶発実生から見つかったものです。 温州市は柑橘類の名産地であるため、ネームバリューを高めるために名前に「温州」をつけたようです。 ちなみに温州みかんは英語では、Citrus unshiu の他に、Satsuma mandarin、Satsuma orange などとも呼ばれています。 サツマはもちろん薩摩つまり鹿児島県です。
温州ミカンは、種子が無くて食べやすく、今でこそ冬みかんの代表ですが、江戸時代には種子が無いのは縁起が悪い(家を継ぐ子供ができない)として、栽培されませんでした。 江戸時代のみかんといえば紀州ミカンで、紀伊国屋文左衛門が船で江戸に運んだ(下の【参考】)のも、この紀州ミカンでした。
紀州ミカンは、最初に日本に広まったみかんでした。 中国浙江省から肥後国に伝わったものが、15~16世紀頃に紀州有田に移され、一大産地となったものです。
上は左が紀州ミカン、右が温州ミカンです。 紀州ミカンはヘタの部分が少し窪んでいます。
上は紀州ミカンの断面です。 上に書いたように種子があります。 食べてみましたが、味は温州ミカンに負けません。
上に書いたように、紀州ミカンは中国から伝わったもので、温州ミカンも日本で突然変異でできたものとはいえ、その元になっているのは中国からの伝来です。 その点、タチバナ(橘)は日本に自生している植物です。
鳥はみかんが大好きです。 先日、カビの生えた温州ミカンがあったので、庭の木に刺しておいたところ、カビをものともせず、メジロとヒヨドリが来て、あっという間に食べ尽くしてしまいました(下の写真)。
鳥が夢中で飛び去ろうとしないような美味しい果実は、種子を鳥に運んでもらおうとする野生植物にとってはマイナスだということを、何度か書きました。
野生植物であるタチバナの果実も、小さく(上の写真)、種子がいっぱい(下の写真)で、すっぱい味がします。 もっとも、すっぱい味が好きな私には食べられないほどでもありませんでしたが・・・。
京都御所紫宸殿の「右近の橘、左近の桜」など、タチバナは古くから大切にされてきた木です。 ところが、牧野富太郎博士によれば、元来タチバナは紀州ミカンに似た食用ミカンの古代名で、今のタチバナと呼ばれている植物ではなかったと主張されています(詳しくはこちら)。 はたして昔のタチバナは紀州ミカンのようなものだったのでしょうか。 それとも、実が生食に適していなくとも、実も白い花も目を楽しませてくれ、「永遠」につながる常緑の、昔も今も変わらぬタチバナだったのでしょうか。 私もまだ牧野博士の主張が十分理解できていませんので、この件についての推敲は、しばらくは未完(ミカン)のままにしておきたいと思います。
【参考】豪商一代紀伊国屋文左衛門 三波春夫(昭和41年紅白歌合戦より)
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