前々回の予告どおり、今日はフナムシとアラレタマキビです。 前々回、生命は海ではじまり、陸に上がるのはたいへんで、ほんの一部の動物しか陸に上がっていないと書きました。 上陸にはそれなりの工夫が必要です。 その工夫に成功したものは陸へ向かいました。 つまり水中で生活するものと陸上生活に適応したものとに分かれていきました。
フナムシは節足動物、アラレタマキビは軟体動物で、かなりかけ離れた動物ですが、両者の共通点は、生態的なところにあって、陸上と水中の境という、中途半端な限られた環境に住む生物だということです。
● フナムシ
節足動物は体の表面を硬くしました。 これは海中での暮らしでは防御のためだったのでしょうが、上陸時には乾燥を防ぐことにも役立ったことでしょう。 しかし陸上に適応するためには、呼吸の方法を変更しなければなりません。 節足動物は陸上生活に適応するために、エラを気管に変更しました。
フナムシは節足動物門・甲殻綱・等脚目に分類されています。 陸上生活をするこの仲間には、ワラジムシやダンゴムシ、それに同じフナムシ科のヒメフナムシなどがいます。 これらはみんなデトリタス(腐敗物)食性であり、乾燥に対してもまだ十分に対応しきれていません。
フナムシ科は、まだエラ呼吸です。 ただし、このエラ呼吸はエラの表面を湿らせておいて、そこに空気中の豊富な酸素を溶け込ませるものになっていますので、湿らせておく水は絶対必要ですが、長時間海水中に入れられると、水中の少ない酸素では窒息死してしまいます。
海岸にはフナムシの餌となるデトリタスはたくさんあります。 この豊富な餌のある環境で生活するために、フナムシの7対の脚のうちの後ろの2対の脚には細かい溝が刻まれています。 この脚を揃えると、毛細管現象で水が昇ってくるしくみになっています。
● アラレタマキビ
軟体動物は身を守る手段として貝殻を作るという方法を手に入れました。 この貝殻も乾燥から身を守る1つの手段として有効で、カタツムリなど陸生の貝が生じました。
軟体動物も、大部分は水中に残り、その一部は陸での生活へと進化したわけですが、アラレタマキビのような、海と陸の境という中途半端な場所を生活の場にするものも出てきました。
中途半端な環境は住みにくいものでしょう。 しかし、他の生物が住みにくい環境は、そこに住むことのできる生物にとっては、競争相手も無く、住み易い環境になるのでしょう。
アラレタマキビは殻高5mmほどの小さな巻貝です。 アラレタマキビの住む環境は、飛沫帯と呼ばれる場所で、満潮線よりも上で、満潮でも海水につからず、時々波しぶきが飛んで来る岩の上です。 アラレタマキビは、この波しぶきで岩の表面に生える微細な藻類を餌にしています。
海水につかることの無い海辺の岩は、夏には70℃にもなります。 そのような時には、アラレタマキビは粘液で殻口の一部分だけを岩に張りつけ、岩との間に隙間を作り、蓋を閉じてじっと耐えています。
アラレタマキビに混じって他の生物を見ることはほとんどありません。
※ 大阪市立自然史博物館では、7月20日~10月14日の日程で、第44回特別展「 いきもの いっぱい 大阪湾 ~フナムシからクジラまで~」が開催されます。 さまざまな生きものの姿や人とのかかわりなどについて展示されるとのことです。
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