レンプクソウの分布は近畿地方以東で、北海道や北半球の温帯には広く分布します。 細長い地下茎を引き、湿り気のある林内などに群生します。
レンプクソウの名前を漢字で書くと「連福草」で、福が連なるというめでたい名前ですが、小さな植物で、目立ちません。 なぜこんな素晴らしい名前になったのかは、いろんな説があるのですが、一説には、福寿草を引っこ抜いた時に、この草が連なってついてきた、とも言われています。 長い地下茎を持っていますので、有りうる話ですが、レンプクソウに福はありそうにありません。
花は3~4月頃に咲くのですが、1つの花の最大の径が6mmほどの小さな花ですし、色も少し緑がかった黄色で、決して目立つ花ではありません。 レンプクソウの学名 Adoxa moschatellina の属名 Adoxa は、「何の取り柄もない」という意味のラテン語からきています。
しかしこの花、じっくり見れば、とてもおもしろい花です。
花は茎の先端に5つ咲きます。 真上を向いた花と、そのすぐ下に4方を向いた花が咲きます(上の写真)。 この花の咲き方もおもしろいのですが、レンプクソウは葉も対生ですので、茎の先端が花芽になって成長が止まり、そのすぐ下の十字対生の芽が花芽に分化したと考えれば、いちおう納得はできます。 しかし、もっとおもしろいのは、この頂につく花と、そのすぐ下の4つの花は、そのつくりが異なっています。 それも雌花と雄花に分化しているような違いではありません。
花はそれぞれの植物の種によって決まった数があります。 例えばチューリップは、ガク片と花弁はそっくりですが、ガク片3、花弁3、オシベ6(3+3)ですし、サクラは、オシベはたくさんあります(5×?)が、ガク片も花弁も5枚です。 ところが、レンプクソウの花は、頂の花は花弁が4裂し、オシベも8本(4+4)で、メシベの柱頭は少し不安定ですが4本が多いのに対し、その下の四方を向いている花の花弁は5裂していて、オシベは10本(5+5)で、メシベの柱頭は5本が多いようです。 同じ茎に咲くすぐ近くの花のつくりがこのように異なるのは、とても珍しいことでしょう。
上は頂の花を真上から見たところです。 柱頭の1つは手前に突き出ていて、はっきりしていません。
上も頂の花ですが、柱頭は5つあります。 ただし距離の近い3つは小さくなっています。
上は四方を向いている花の1つを正面から撮ったものです。
さらに、ガクを見ると、頂の花のガクは2方向に伸びていますし、四方を向いている花のガクは3方向に伸びて三角形のような形になっています。 ガクの様子は花弁が散った後の方が撮りやすいので、下の写真はそのような時期の花を選んでいます。
このような変わった花をつけるので、従来はレンプクソウは1属1種でレンプクソウ科を形成しているとされてきました。
ところが近年は遺伝子を解析することで植物の近縁関係を調べ、それを基に分類する方法を取るようになってきました(APG植物分類体系)。 それによると、これまでスイカズラ科とされていたサンゴジュ、ヤブデマリ、ガマズミなどのガマズミ属( Viburnum )やニワトコ属( Sambucus )の植物がレンプクソウに近いことが分かり、これらはレンプクソウ科に移されることになりました。 よく見ているこれらの植物がレンプクソウと遺伝子的に似ているというのは驚きです。
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