マツバギク(特に花弁と光合成について)
マツバギクは、暑さにも乾燥にも強く、少なくとも大阪付近では冬の寒さにも露地で耐えることができます。 花は、活発に活動できる温度になった春にたくさん咲き、その後は、温度さえあれば“体力”の回復を待って咲き続ける逞しい花です。 過湿には弱く、光不足では花が少なくなりますが・・・。
このマツバギクの名前は、葉が松葉のように細長い(葉は多肉質で、松葉に比べれば、かなり太く短いですが・・・)キクということでしょうが、キク科ではありません。 マツバギクはハマミズナ科の植物です。
キク科の花は、これまでに何度か書いてきたように、たくさんの花が集まって1つの花のように見えます。 また、周辺部の舌状花と中心部の筒状花の2種類の花が、それぞれ複数集まったものもたくさんあります(例えばディモルフォセカ)。
マツバギクの花は、キク科のように舌状花と筒状花に分かれているように見えますが、花の断面をつくってみると、驚きの事実が見えてきます。
舌状花のように見えていた部分と筒状花のように見えていた部分とは、基部でまとまっていますし、よく見れば、連続的に変化しています(上の写真:クリックで拡大します)。 つまり、同じものです。 筒状花のように見える部分では花粉を出していますから、オシベです。 つまり、細くたくさんある花弁のように見えるのも、全てオシベだということになります。 花弁状のオシベはありますが、ほんとうの花弁はありません。
上で、マツバギクは暑さにも乾燥にも強く、花を咲かせ続けると書きました。 暑く水分の多い条件で元気な植物や、乾燥にじっと耐えることのできる植物はいろいろありますが、マツバギクのような植物は、日本で栽培されている植物の中では、少数派です。 その秘密は光合成のしかたにあります。
以下、文章だけになってしまいますが、光合成について簡単にまとめておきます。 光合成とは、よく知られているように、光エネルギーを利用して、二酸化炭素と水から糖を合成する反応ですが、高等植物の光合成のしかたには、大きく分けて3つのパターンがあります。 C3型光合成、C4型光合成、CAM型光合成の3種類です。
ここでは植物の細胞内で行われている反応経路には触れませんが、C3型光合成は、いちばん“普通の”光合成です。
光合成には、光、水、二酸化炭素と、反応が進行するための温度が必要ですが、紫外線は植物にとっても有害ですし、イメージ的には、温度が高すぎると、水も二酸化炭素も分子の運動がさかんになって、光合成に利用しにくくなります。
C4型光合成は、葉の維管束の周囲に維管束鞘という組織をつくり、C3型光合成に反応経路を付け加えることによって、強すぎる光の害を防いだり、高すぎる温度による光合成効率の低下を防ぎます。 ですからC4型光合成は、強光、高温、乾燥気味の条件下では、C3型光合成に比べて有利になりますが、C3型光合成にはない反応が加わっている分、使用するエネルギーが多く、光合成に適した条件下では、C3型光合成より不利になります。 C4型光合成を行う植物は、猛暑の中で驚くほどの生長を見せるトウモロコシなど、イネ科植物などで見られます。
第3のパターン、CAM型光合成は、夜のうちに二酸化炭素を取り込んで有機酸の形にしておき、昼間は気孔を閉じたまま光合成を行う様式です。
光合成に必要な二酸化炭素は気孔から取り込まれますが、気孔を開けば、特に高温の条件下であれば、水分も気孔から出て行ってしまいます。 CAM型光合成は、水分が不足ぎみで、昼夜の温度差が大きい環境に適応したものだと考えられます。 もちろんCAM型光合成では、夜に二酸化炭素を取り込んでおく時にもエネルギーを消費してしまいますし、昼間には二酸化炭素を取り込まないのですから、光合成に適した条件下では不利になります。
CAM型光合成を行う植物をCAM植物と呼んでいます。 CAM植物としては、サボテン科、ベンケイソウ科、トウダイグサ科などが挙げられます。
さて、話をマツバギクに戻します。 マツバギクは、CAM型光合成とC3型光合成を、すばやく切り替えて行うことができる植物です。 つまり、条件のいい時にはC3型光合成で効率よく光合成を行い、高温や水分不足など、条件が悪くなるとCAM型光合成を行います。 このようなことができる植物は、そんなに多くはありません。
※ マツバギクと呼ばれているものには、よく似た複数の種が存在します。
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