トウセンダンの果実
センダンは古名を「アフチ」といい、万葉集などにもよく詠まれています。 トウセンダンはセンダンの変種で中国原産ですが、植栽されているのはトウセンダンの方が多いようです。 なお、「栴檀(センダン)は双葉より芳し」(大成する人物は幼時から優れたところがある)のセンダンは、ビャクダン科のビャクダン(白檀)の異称で、今回のセンダン科の(トウ)センダンとは関係ありません。
トウセンダンの実は鳥にはあまり人気が無く、他の実があるうちはあまり食べようとはしませんし、果実の中には大きな硬い核があるために、あまり小さな鳥の口には入りません。 で、下のように、まるで花が咲いたようにたくさんの実がついている姿となります。
この実が今、さかんに落ちています。 鳥が落とす場合もあるでしょうが、春の準備に入らなければならないこの時期に、木が自らも実を落としているようです。 下の写真も、そのような落ちていた実です。
このセンダンの果実の中には、いくつかの稜を持つ硬い核があります。 ヒヨドリなどの糞の中には、この核がよく見られます。 センダンの核は稜が5つですが、トウセンダンには、6(~8)個の稜が見られます。
この硬い核を種子だと思っている人が多いようです。 私も昔はそう思っていました。 しかしある時ふと
「なぜ種子がこんな稜を持っているんだろう?」
と疑問に思いました。 種子が変な形をしている場合は、中の胚が変な形をしているなど、それなりの理由があるはずです。 核の中を見たくなって、断面を作ったことがありました。
今回、ここに載せる写真を撮るために、改めて断面を作りましたが、ほんとうに硬いですね。 今回は糸鋸で途中まで切って、そこにナイフの刃を当てて、ナイフの刃の背を金槌でたたきました。 できた横断面が下の写真です。
断面を見ると、各稜の内側には、種子らしきものの白っぽい断面が見えます。 断面が黒くなっている部分は、糸鋸でゴリゴリやったためでしょう。 白っぽいものの周囲には黒っぽい薄い皮が見られます。
この白っぽいものが、断面以外の部分でつながったひとつながりの胚ではないことを確認するために、縦の断面も作ってみました(下の写真)。
どうやら断面の白っぽいものは、それぞれが独立した種子のようです。 この6稜のある核の横断面には種子が5つしか確認できませんが、1つは不稔だったのでしょう。
つまり、鳥に食べられてもそのまま出てくる稜のある硬いものは、種子の外側の種皮ではないということになります。 複数の種子を包みこむことができるのは、果皮です。
果実は、種子と、それを包み込む果皮とからなります。 果皮は、通常は3層になっていて、外側から外果皮、中果皮、内果皮と呼ばれています。 身近な果実も、そのつくりを理解するのはなかなか難しく(だから面白さもあるのですが・・・)、リンゴのように偽果であったり、単純に見えるサクランボでも、内果皮と種皮が密着していて、内果皮と種皮のどちらが硬くなって内部を保護しているのかをあまり問題にはしません。
トウセンダンの硬い核は内果皮のようです。 このような硬い内果皮を持つ果実を「核果」と呼んでいます。 多くの場合、核果の中には1つの種子が入っているのですが、センダンやトウセンダンでは、1つの核果の中に複数の種子が入っています。
トウセンダンは、内果皮で種子を守りながら、その種子を運んでもらうために、中果皮をヒヨドリなどがどうにか食べる程度においしくしている(あまりおいしすぎるのも問題だということは、これまでにも書きました)ということになります。
上では種子の断面ばかりを載せましたので、下にちゃんと取り出した種子を載せておきます。 種子は黒褐色の種皮で覆われています。
トウセンダンの、鳥の糞の中に入っていた核果や、果肉を洗い流した核果を撒くと発芽しますが、この時はもちろんそれぞれの種子から幼根を伸ばします。 ですからこの核果を種子だと思い込んでいる人は、
「1つの種子を土に埋めただけなのに、なぜたくさんのトウセンダンが芽生えてくるの???」
ということになります。
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