上は左から温州ミカン、紀州ミカン、タチバナです。 柑橘類は種類が豊富ですが、今回はこの3種について書いてみることにします。
まずは温州(ウンシュウ)ミカンから。
中華人民共和国浙江省に温州(ウェンジョウ)市があります。 温州ミカンは名前からして、ここと関係がありそうですが、じつは全く関係が無く、鹿児島県で偶発実生から見つかったものです。 温州市は柑橘類の名産地であるため、ネームバリューを高めるために名前に「温州」をつけたようです。 ちなみに温州みかんは英語では、Citrus unshiu の他に、Satsuma mandarin、Satsuma orange などとも呼ばれています。 サツマはもちろん薩摩つまり鹿児島県です。
温州ミカンは、種子が無くて食べやすく、今でこそ冬みかんの代表ですが、江戸時代には種子が無いのは縁起が悪い(家を継ぐ子供ができない)として、栽培されませんでした。 江戸時代のみかんといえば紀州ミカンで、紀伊国屋文左衛門が船で江戸に運んだ(下の【参考】)のも、この紀州ミカンでした。
紀州ミカンは、最初に日本に広まったみかんでした。 中国浙江省から肥後国に伝わったものが、15~16世紀頃に紀州有田に移され、一大産地となったものです。
上は左が紀州ミカン、右が温州ミカンです。 紀州ミカンはヘタの部分が少し窪んでいます。
上は紀州ミカンの断面です。 上に書いたように種子があります。 食べてみましたが、味は温州ミカンに負けません。
上に書いたように、紀州ミカンは中国から伝わったもので、温州ミカンも日本で突然変異でできたものとはいえ、その元になっているのは中国からの伝来です。 その点、タチバナ(橘)は日本に自生している植物です。
鳥はみかんが大好きです。 先日、カビの生えた温州ミカンがあったので、庭の木に刺しておいたところ、カビをものともせず、メジロとヒヨドリが来て、あっという間に食べ尽くしてしまいました(下の写真)。
鳥が夢中で飛び去ろうとしないような美味しい果実は、種子を鳥に運んでもらおうとする野生植物にとってはマイナスだということを、何度か書きました。
野生植物であるタチバナの果実も、小さく(上の写真)、種子がいっぱい(下の写真)で、すっぱい味がします。 もっとも、すっぱい味が好きな私には食べられないほどでもありませんでしたが・・・。
京都御所紫宸殿の「右近の橘、左近の桜」など、タチバナは古くから大切にされてきた木です。 ところが、牧野富太郎博士によれば、元来タチバナは紀州ミカンに似た食用ミカンの古代名で、今のタチバナと呼ばれている植物ではなかったと主張されています(詳しくはこちら)。 はたして昔のタチバナは紀州ミカンのようなものだったのでしょうか。 それとも、実が生食に適していなくとも、実も白い花も目を楽しませてくれ、「永遠」につながる常緑の、昔も今も変わらぬタチバナだったのでしょうか。 私もまだ牧野博士の主張が十分理解できていませんので、この件についての推敲は、しばらくは未完(ミカン)のままにしておきたいと思います。
【参考】豪商一代紀伊国屋文左衛門 三波春夫(昭和41年紅白歌合戦より)
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