ヨモギの花
ヨモギはとても身近な野草です。 また、身近にみられるだけでなく、草餅にしたり、新芽をおひたしや汁物の具や天ぷらにしたりもしますし、ヨモギ風呂、せんじ薬など民間薬としても使われてきました。 灸に使う艾(もぐさ)も、葉の裏側の綿毛から作られます。
このような身近な野草であるにも関わらず、夏から秋にかけて咲く花は、小さすぎるためか、ヨモギの利用はほとんど葉であるためか、あまり注目されません。 しかし、植物理解の基礎として分類学的に理解しようとすれば、花を見ないわけにはいきません。
花を咲かせているヨモギ
上が花をたくさん咲かせているヨモギです。 しかし、このように花を咲かせている状態は、1つの株についてみれば、きわめて短期間です。
私たちがヨモギの花を見ようと目を近づけて観察した場合、多くは上のような状態です。 でも、これでも、ヨモギの花はいくつかの小さな花がひとまとまりになっている、専門用語を使いますと、小花(ほんとうの1つの花)が集まった頭状花序(=頭花)をつくっていることが分かります。 この状態を見ると、ヨモギはキク科であることが分かります。
ヨモギの雄性期の花
上の写真の中央が咲き始めた状態です。 小花の中央から花粉が出ています。 花粉を出している小花からは、まだメシベは出ていません。 雄性期です。 よく見ると、この花粉を出している小花の花弁は5裂していることも分かります。
ヨモギの雌性期の花
花粉を出し終えた花はメシベを伸ばし、花粉を受け取る状態になります(上の写真)。 雌性期です。 メシベの柱頭は2裂しています。
よく見ると、頭花の中心部の小花と周辺部の小花が違っています。 つまり1つの頭花には2種類の小花があります。
上は頭花をバラバラにして2種類の小花(ほんとうの1つの花)を取り出し、並べたものです。 左が周辺部にある小花で、右が中心部にある小花です。
まずは分かりやすい右の中心部にある小花から見ていくことにします。 いちばん下には子房があり、そこから上に花筒が伸びています。 このような花を筒状花と呼んでいます。 頭花ではたくさんの小花の集まりを総苞が保護しているのですが、その総苞から外に出ている花弁の部分は赤褐色になっています。 花弁の先端は、この写真でははっきりとは確認できませんが、5裂しています。
花弁の中央からは柱頭が2裂したメシベが伸び出しています。 オシベは、この状態では花粉を出し終えていますが、花弁の中に隠れていて見えません。
次に、左の、周辺部にある小花を見ていくことにします。 小花のいちばん下に子房があることは同じですが、ずいぶんほっそりとしています。 長く伸びているのはメシベで、2裂している柱頭も中心部の小花より長くなっています。 花弁はというと、このメシベの花柱(メシベ一部で、柱頭と子房との間の部分)の下半分にくっついているのが分かるでしょうか。 薄緑色の花柱にくっついている花弁も薄緑色ですから、分かりにくいのですが・・・(写真はクリックで拡大します)。
周辺部の小花のオシベは・・存在する場所がありません。 周辺部の小花がほっそりしているのはオシベが無くなっているからです。 つまり周辺部の小花はオシベの無い雌性花で、中心部の小花はオシベとメシベが揃っている両性花です。 両性花は、上に書いたように、雄性期を経て雌性期へと変化しますが、もちろん雌性花には雄性期は存在しません。
種子は、ちゃんとした子房があることからもわかるように、どちらの小花からもできます。
ヨモギの冠毛
花が終われば種子生産へと向かいます。 冠毛が伸び、同じキク科のタンポポなどと同じように、風に乗って種子は広がっていきます。
※ 同じヨモギ属に分類されているクソニンジンはこちらに載せています。
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コメント
菊花展で聞いたお話ですが、
1鉢に一株の菊から3本の茎を立てて大きな花を三つ咲かせるのですが、その時ヨモギの茎を使って接ぎ木をするようなこと言われてました。
イマイチよう分かりません。
散歩道でヨモギを観るとナルホド1枚目のように茎は太いです。
横道にそれてスミマセン。
投稿: わんちゃん | 2012年11月10日 (土) 21時51分
果樹でも園芸植物でも、品種改良の結果、根が自生種ほど逞しくなくなった場合には、近縁の自生種に接木を行うことはよくあります。
菊花展のキクの台木に野生の菊を使うと聞いたことがありますが、ヨモギを使うことは知りませんでした。
投稿: そよかぜ | 2012年11月10日 (土) 23時14分