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2012年9月29日 (土)

ヒラアシキバチ

 ハチの進化を見た場合、原始的なハチの幼虫の餌は植物組織です。 つまり葉を食べるハバチや材を食べるキバチなどの仲間です。
 キバチ科は針葉樹を利用するキバチ亜科と広葉樹を利用するヒラアシキバチ亜科に分けられます。 ヒラアシキバチ亜科のヒラアシキバチは、卵を枯れたエノキの辺材部に産み付け、幼虫は辺材を食べて育ち、材の中で羽化した成虫は幹に穴を開けて出てきます。
 そんな知識が思い込ませるのでしょうか、ヒラアシキバチの顔からは、アシナガバチやスズメバチなどの狩蜂の顔の獰猛さは感じられず、私には穏やかな顔に思えました。

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 そんなヒラアシキバチの産卵に出会いました。

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 硬い木に産卵管を差し込むのですから、たいへんなようです。 体を左右にねじりながら、徐々に産卵管を幹に差し込んでいきます。 上の写真で、腹部の中央付近から出ているように見える黒いものが産卵管で、腹部の端から後ろに突き出ているのは、産卵管をしまっておく産卵管鞘です。
 産卵管は、ゆっくりと錐をもむように差し込まれていきます。 産卵管を差し込んだ所からは木屑がこぼれ出ています(下の写真)。

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 当日は何頭かのヒラアシキバチの産卵を見ましたが、そのうちの1頭は羽化したばかりのようで、体には木屑がついていて、まだ飛び立つこともできないようでした(こちら)。 しばらく見ていると、そのヒラアシキバチが産卵管を幹に差し込みはじめましたが、周囲にはオス(産卵管鞘は無いはずです)らしき姿は見当たりませんでした。
 じつはヒラアシキバチのオスはおらず( この点についての詳細はこちら )、ヒラアシキバチは産雌性単為生殖を行っているのだと考えられています。

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 ヒラアシキバチが産卵している枯れたエノキには、産卵管が差し込まれたままちぎれた腹部があちこちにたくさん残されています(上の写真)。 これはどのような理由によるものなのでしょうか。 産卵途中で敵に襲われたのでしょうか。 それとも産卵で力尽きて死んでしまった体が、その一部を残して落下してしまったのでしょうか。 古いものでは産卵管だけが残っている場合もありますが、新しいもののほとんどが、産卵管の位置から後ろが残されているのですが、このことは何を意味しているのでしょうか。

 ところで、オオホシオナガバチやエゾオナガバチタカチホヒラタタマバチなどの幼虫は、このヒラアシキバチの幼虫に寄生することを前に書きました。 つまりこれらの蜂もヒラアシキバチも同じ木に産卵しているのですが、その枯れたエノキにはミダレアミタケというキノコが生えています。

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 上の写真に写っている蜂はエゾオナガバチですが、たくさん生えているキノコがミダレアミタケです。 このミダレアミタケは、ヒラアシキバチが運んできた胞子から育ったものと考えられています。
 ヒラアシキバチの産卵管の付け根には1対の菌嚢(きんのう)があり、その中にはミダレアミタケの胞子が入っています。 近くにはミューカスと呼ばれる粘液の入った袋もあり、産卵時には同時に菌嚢に貯えた胞子を接種します。 胞子から発芽したミダレアミタケの菌糸は材を分解し、ヒラアシキバチの幼虫が利用しやすくしてくれます。 蜂と菌の共生です。

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昆虫07 ハチ」カテゴリの記事

コメント

突然ですがリンクお願いしていいですか?

オオホシナガバチとヒラアシキバチの関係
脇役のミダレアミタケ
スゴイなぁと思いました


投稿: わんちゃん | 2012年9月30日 (日) 18時00分

リンクの件は了解です。

昆虫がキノコの胞子散布にいろいろ関係していることが、次第にいろんなキノコで分かってきています。

投稿: そよかぜ | 2012年9月30日 (日) 22時26分

はじめまして
「ぽん太の昆虫ブログ」を開設しているぽん太と申します。
貴ブログのヒラアシキバチについての記事がとてもよく
まとまっていたので参照いたしました。

投稿: ぽん太 | 2012年11月 4日 (日) 14時29分

はじめまして
リンクのご連絡、丁寧にありがとうございます。
ぽん太さんも、虫も鳥も植物もなんですね。

投稿: そよかぜ | 2012年11月 4日 (日) 22時58分

はじめましてm(__)m

職場の木にかなりたくさんのが止まっておりそれがなんと言うハチなのか探していたのですがここにたどり着きまして、ヒラアシキバチだとわかりました。

見たところ産卵が終わると産卵管を刺したまま死んでしまうようです。

全体がきれいに残ったままの死骸が木にしがみついたままかなりの数残ってました。
それが風雨やナメクジ(死骸に粘液がついてました)にやられて固い産卵管が残ったんだと僕は見てます。
今では生きている個体はいなくなってしまいました。

投稿: 田中 | 2012年11月 9日 (金) 17時59分

田中さんの、職場という頻繁に観察できる場所での貴重な観察内容をお知らせいただいたことに、感謝します。
ただ、産卵管を刺したまま死んでしまうとしても、1回目の産卵でそうなってしまうのか、場所を変えての何回かの産卵の後に力尽きてしまうのかという疑問は残ります。
産卵管を刺しかけたところで、産卵場所を変更するためにその場所での産卵をとり止める、ということもあると思いますので、判断は難しいと思いますが、もしこの点について何か分かることがあれば、またお知らせください。
なお、職場の枯木なら伐採処分されてしまうかもしれませんし、そうでなくても、枯れたエノキの材の様子も、ヒラアシキバチの幼虫やキノコの菌糸やその他さまざまな影響で変化するでしょうから、ヒラアシキバチを見ることができるのは数年のことだと思います。

投稿: そよかぜ | 2012年11月10日 (土) 00時07分

お久しぶりです。
そよかぜさんが危惧されていた通り今日数本あったエノキの木が撤去されてしまいました。
今年はしっかり観察してみようと思っていたので残念でなりません。

投稿: 田中 | 2013年4月 9日 (火) 12時36分

やはり処分されてしまいましたか・・・。
知らない人にとっては見苦しい枯木ですから、しかたのないことですが、残念ですね。

投稿: そよかぜ | 2013年4月10日 (水) 01時03分

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