イヌビワの雌株と雄株
イヌビワは日本に自生するイチジクの仲間です。 多くの植物では、雌株は雌花を咲かせ雄株は雄花をつけます。 ところが、イヌビワを含むイチジクの仲間では、このことは当てはまりません。
私たちが「イチジクの実」と言っているのは「果のう(=花のう)」と呼ばれていて、イヌビワを含む野生のイチジクの仲間では、この果のうの中で花が咲きますが、雄株の果のうの中にも雌花が咲きます。
では、雌株と雄株はどう違うのかといえば、雌株の果のうでは種子ができますが、雄株の果のうでは種子ができません。
イヌビワの外からは見えない果のうの中で咲く花に花粉を運ぶのは、イヌビワコバチです。 花粉をつけたイヌビワコバチのメスは、雌株の若い果のうにも雄株の若い果のうにも潜り込み、子房に産卵しようとします。 しかし、雌株の雌花と雄株の雌花はメシベのつくりが違っていて、雄株の雌花には産卵できるのですが、雌株の雌花には産卵できません。 つまり雌株の雌花はイヌビワコバチが運んできた花粉により受粉し、種子を形成していくのですが、雄株の雌花の子房では、イヌビワコバチが子房の組織を食べて育ちます。
イヌビワはイヌビワコバチがいないと受粉できません。 イヌビワの雌株は種子を作り、雄株は花粉を運んでくれるイヌビワコバチを育てます。
イヌビワにとっては、イヌビワコバチは必ずイヌビワの花粉を運んできてくれますから、とても頼りになる花粉媒介者です。 また、イヌビワコバチにとっても、イヌビワがあるからこそ、子孫を残すことができるのです。
今の時期、雌株の果のうは次々と黒っぽく熟していきます(上の写真)。 この熟した果のうは人が食べてもおいしいのですが、鳥たちにとってもご馳走です。 もちろん鳥たちは、この果のうを食べる時に種子も食べるわけですから、食べられることによって種子散布が可能になるわけです。 上の写真では、食べ残された熟した果のうの周囲には、たくさんの種子が見えます。
一方、雄株の果のうは雌株の果のうのようにおいしくはなりません。 中で育ったイヌビワコバチが旅立ちやすいように、果のうの口を大きく開きます。 そしてイヌビワコバチが出てしまった果のうは、茶色く枯れていきます(上の写真)。
ちょうど口が開きかけた雄株の果のう(上の写真)があったので、持ち帰って断面を撮ってみました(下の写真)。
上の写真で、たくさんある球形のものがメシベの子房です。 黒っぽく見えるのは、中でイヌビワコバチや、そのイヌビワコバチの幼虫を食べて育ったイヌビワオナガコバチなどが育っているからです。 つまり、雄株の果のうの雌花の子房は虫えいになるために存在するわけで、雄株の雌花は「虫えい花」とも呼ばれます。
このイヌビワコバチたちは間もなく羽化するでしょう。 イヌビワがイヌビワコバチを育てているのは、繰り返しますが、花粉を運んでもらうためです。 羽化して果のうを出て行く時には花粉をつけて出て行ってもらわなければなりません。 果のうの出口付近には、たくさんの雄花が咲き、花粉を出しています(下の写真)。
この果のうの中にいた虫たちは、こちらに載せています。
※ イヌビワとイヌビワコバチの冬越しについては、こちらに書いています。
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