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2012年7月12日 (木)

オオバノトンボソウ

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 このブログで前にコバノトンボソウを載せましたが、今回はオオバノトンボソウです。 コバノトンボソウは湿原に生育しますが、オオバノトンボソウは丘陵や低山の林縁や明るい林床に生育します。
 名前のとおり下方には比較的大きな葉をつけますが、上方になるにつれ、葉は次第に小さくなります。 「大葉」と言われながらも、花に比べて葉が少ない印象ですが、これもこれまで何度か書いてきたように、ラン科の植物は菌類と深い共生関係にあり、効率よく肥料分の供給を受けているからでしょう。
 オオバノトンボソウは、コバノトンボソウなどと共に、ツレサギソウ属に分類されています。 ややこしいですが、別にトンボソウ属があって、トンボソウやヒロハトンボソウなどがこれに属します。

 下は1つの花を撮ったものですが、トンボが飛んでいるように見えるでしょうか。

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 花のつくりを見ていくことにします。 ラン科は単子葉類で、基本的にはガク片3枚、花弁3枚、オシベ3本なのですが、花は左右相称になり、さらに特殊化して分かりにくくなっています。

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 花の基本からすれば、花の向きは花柄の伸びる方向つまり上向に咲くのですが、多くのラン科の花は左右相称となり横向きに咲きます。 ところがオオバノトンボソウの花は、さらに曲がって下向きに咲きます。 多くのラン科では、3枚の花弁のうちの1枚が、他の2枚と異なる姿となり、唇弁と呼ばれています。 この唇弁は、横向きに咲く場合には、本来は上に来る花弁です。 ところが多くのラン科の花では花の下方にある子房の部分が180°ねじれて、唇弁は下方に位置することになります。 オオバノトンボソウの場合は、上に書いたように花は下に向いていますから、唇弁は茎の方に伸びることになります。 唇弁の一部は長く伸び、蜜を貯めておく距(きょ)になっています。
 唇弁以外の2枚の花弁(側花弁)は、1枚のガク片(背ガク片)と共に、蕊(ずい)柱(=オシベとメシベが合着したもの)をドーム状に覆うようになります。 他の2枚のガク片は左右に開き、“トンボの翅”になります。

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 上はオオバノトンボソウの花を下から覗き込んだものです。 ラン科の花はオシベとメシベが合着して蕊柱となっていることは上に書きました。 オオバノトンボソウの蕊柱は半筒形をしています。
 もうひとつ、このオオバノトンボソウの花を理解するにあたっては、オシベについての知識が必要になります。 一般的に1本のオシベの葯には花粉を入れておく葯室が左右2ヶ所あり、左右の葯室をつないでいる部分を葯隔と呼んでいます。 ふつうはこの葯隔は幅の狭いものなのですが、オオバノトンボソウの葯隔は、たいへん幅の広いものになっていて、葯室は左右に離れて位置します。
 オオバノトンボソウの学名は Platanthera minor ですが、この属名はギリシャ語の platys(広い)+anthera(葯)に由来しています。 これは上に書いたように、葯に相当する部分が幅広いことを意味しています。 ちなみに種小名の minor は、「小さい」という意味ですが、これは同じ属のツレサギソウ(これが属の基本となっていて、学名も P. japonica です)と比較して、小さな花をつけるところからきています。
 花のつくりに話を戻します。 最初の方で、ラン科の花のオシベは本来は3本あると書きました。 そのうちの1本は退化して蕊柱の形成に使われ、葯はみあたりません。 残りの2本のオシベを重ねて左右に引き伸ばします。 そのうちの後方に位置するオシベの葯は退化し、仮オシベとなります。 手前に位置するオシベが受粉に役立つ花粉を作ります。
 ラン科の花粉は塊になっていて、まとめて虫に運んでもらいます。 花粉を媒介する昆虫が蜜を求めて、上の写真の距の入口から口を差し込みます。 もしこの昆虫が花粉塊を体につけていたら、その花粉塊は柱頭にこすりつけられるでしょう。 この時、虫の体が粘着体(上の写真)に触れると、粘着体は虫の体にくっつきますが、この粘着体は小柄で葯室にしまわれている花粉塊につながっています。 こうして花粉塊は虫に運ばれることになります。
 下は花の中心部を正面から撮ったものですが、写真に向かって右側の葯室が空になっています。 もちろん粘着体も見当たりません。

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コメント

おはようございます!
はじめまして
先日尾瀬で見たトンボソウに良く似た花を
東京の丘陵で見かけ気になっていろいろ調べても分からず花のお尋ねサイトで聞いて
オオバノトンボソウと教えていただきました
ホトトギスから此方にたどり着きましたが
何れも詳しく書いてあって参考にさせて頂きました
虫も鳥も分からないものの法が当然多いので
楽しみに拝見いたします

投稿: あかね | 2012年7月13日 (金) 09時09分

あかねさん、はじめまして
あかねさんのブログも拝見しました。
武蔵野はまだまだ自然豊かのようですね。うらやましいです。
大阪府南部の山はスギやヒノキの植林が多くて生物相は貧弱です。

投稿: そよかぜ | 2012年7月13日 (金) 21時52分

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