タシロラン
タシロランは、田代善太郎氏が長崎県諫早で発見されたことに因んで牧野富太郎博士により命名された、ラン科の「菌従属栄養植物」です。 従来は「腐生植物」と呼ばれていましたが、菌根菌との関係が明らかになるにつれ、このような名前で呼ばれるようになりました(詳しくは下に書いています)。
分布は関東以西の主に太平洋側と考えられます。 地上には花茎のみが現れます。 花期は6月下旬から7月上旬にかけての約2週間です。 種子は開花後1週間ほどで散布されます。 つまりタシロランは1年の大半を地中で過ごし、地上に姿を見せるのは1ヶ月も無いということになります。
花序は最初、上の写真のように、うなだれた姿で出現します。 まるでツル植物のような姿ですが、これは花茎が硬くなる前にどんどん伸びてくるという、生長の速さを示しているのでしょう。 全体に白っぽく、葉緑素は持っていません。
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花序は間もなく直立し、下方から順次花が咲いていきます(上の写真)。 花柄の基部には、薄質の苞があります。 花被片は披針形で、距の長さは約5mm、唇弁には淡紅色の斑点があります。
上で、タシロランは「菌従属栄養植物」であると書きました。 このことについて、もう少し詳しく書いておきます。
多くの植物は、地下組織において、菌類(=キノコやカビの仲間)と共生し、菌根を形成していることが次第に分かってきました。 菌根とは菌類が植物の根に侵入して形成する共生体です。 通常、この菌根共生では、植物は光合成できない菌類に光合成産物である炭水化物(=生きるためのエネルギー源)を提供し、菌類は窒素やリン酸などを植物に提供しています。 植物の根よりも細い菌糸は土の間に入り込みやすく、これらの土壌中の栄養塩類を取り込みやすいようです。
ところが、タシロランなどの光合成を放棄した植物では、炭水化物も菌類からもらっています。 タシロランはナヨタケ科の菌類と菌根を形成しています( Yamamoto et al. 2005 )。 ナヨタケ科の菌は腐生菌ですから、落葉や落枝などを分解して炭素化合物を得て生活しています。 つまりタシロランは、ナヨタケ科の菌類が存在しないと生きていけず、ナヨタケ科の菌類に寄生しているとも言えるのですが、ナヨタケ類は「寄生」というほどには被害は少ないようで、「従属栄養」という言葉が使われています。 ちなみに私たちも、他の生物由来の「食物」を食べ続けなければ生きられない従属栄養の生物です。
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コメント
わんちゃんのblogの「ツチアケビ」の項で
「菌従属栄養植物」についてこちらへリンクさせていただきました
ヨロシクです
投稿: わんちゃん | 2012年6月30日 (土) 10時33分
了解です。
ネットで検索しても、「菌従属栄養植物」という言葉がどんどん使われてきているようですね。
投稿: そよかぜ | 2012年6月30日 (土) 20時27分