ツチアケビは秋にアケビの実のような形の真っ赤な実をつけるラン科の植物で、葉は退化して、地下茎に鱗片のような葉があるのみで、自ら光合成は行いません。 つまり秋には、地上から突き出た赤褐色の枝に、赤い大きな実をたくさんぶら下げるので、ハイキングの人などを驚かせることになります。
(2012.9.22.撮影・追加)
なお、果実は肉質の液果で、その点では同じラン科のバニラなどと共通していて、両者はやや近縁とも言われています。
そのツチアケビの花が咲いていました。 花を見れば、ラン科の植物だと分かります。
写真のツチアケビはまだ小さい方で、大きなものになると、高さが1mにもなります。
上で、ツチアケビは自ら光合成しないと書きました。 上の写真でも、光合成するような緑の部分は見当たりません。 ではツチアケビはどのようにして花を咲かせ結実に必要な栄養を得ているのでしょうか。
これらのことを最初にまとめたのは濱田稔氏の研究(1939~1940年)です。(日本植物学輯報,10(1,2,4)) これによると、ツチアケビはナラタケと大きな関りを持っています。 ナラタケの菌糸の存在しない場所にはツチアケビは生えません。
ナラタケ(上の写真)は食用にもなるキノコです。 ただしたくさん食べると消化不良などの中毒を起こすことがあるキノコですが・・・。 なお、ナラタケにも何種類かあり、ここではナラタケ属の意味で使っています。
キノコは胞子を散布するために地上に顔を出したもので、キノコの本体は細い糸状の菌糸で、この菌糸が枝分かれをして広く広がっています。
ナラタケは木材腐朽菌で、ナラなどの枯木内に菌糸を張り巡らせ、材を腐らせて栄養を得ています。 夏から秋にかけてナラタケの成長の盛んな時期、ナラタケは勢力の拡大を図り、菌糸は次の枯木を求めて地中にも伸び、ツチアケビの根に出会うと、その根に侵入します。 どうやらツチアケビは枯木を装う物質を作っているようなのです。 身を切らせて骨を切るツチアケビの作戦です。
ナラタケの菌糸はツチアケビの根の中で増え、枯木に由来する栄養分を貯える菌糸の塊を作ります。 そして冬、気温の低下と共に、ナラタケの活動は低下します。 その時をツチアケビは待っていました。 ツチアケビは自らの根の中で増えていたナラタケの菌糸を消化し、自らの栄養とするのです。 ツチアケビは毎年このことを繰り返し、次第に大型化していきます。
(以下、2015.9.21.追記)
ツチアケビの果実の赤い色は鳥に食べられるための色だということです。 このように書くと当たり前のようですが、末次健司氏が論文にする( Nature Plants,2015 )まで証明されていませんでした。 理由は秋に赤い色をしていても食べると渋いようで、鳥に食べられるのは冬になってからで、見過ごされていたからだと思われます。
なお、この発見は、ラン科全体で世界初の動物散布の報告となるとのことです。
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