コウボウムギ
下はコウボウムギ、左が雌株、中央から右が雄株です(5月4日、大阪府二色浜で撮影)。
コウボウムギは砂浜に育つ海浜植物のひとつで、カヤツリグサ科スゲ属の多年草です。 スゲ属の多くは、例えばヒメカンスゲの所で書いたように、1本の花柄に雌小穂と雄小穂をつけます。 コウボウムギに似たコウボウシバも1本の花柄に雌小穂と雄小穂をつけます。 しかしコウボウムギはスゲ属には珍しく、雌雄異株です。
砂浜の砂はよく動きます。 また潮風もあり、乾燥しがちです。 そんな環境で生きる工夫として、コウボウムギは地下に長く伸びる匍匐茎を発達させています。
コウボウムギの生えているところを見ると、オスの花茎ばかりが目立つ所と、メスの花茎ばかりが目立つ所があります。 最初の写真は、雌株と雄株が1枚の写真に納まるところをやっと探して撮ったものですが、それでも中央から右側はオスの花茎ばかりです。 これは地下で長い匍匐茎が這い回り、その所々で雄株・雌株それぞれの地上茎を出しているのだと考えると、理解できます。 乾燥しやすい環境にあって、花茎は硬く直立しています。
葉も、乾燥に耐えるために、厚みがあって硬く、古い葉も比較的長く残っている様子が、1枚目の写真でも分かります。 また、分解されずに残った古い葉鞘の繊維は、昔は筆の穂に使っていたようで、コウボウムギは「筆草(ふでくさ)」とも呼ばれていたようです。 コウボウムギの「コウボウ」も、筆とくれば三筆のひとりでよく名の知られた弘法大師(=空海)だ、ということからのようです。 なお「ムギ」は雌株の果実が稔った様子が麦の穂に似ているところからでしょう。
花穂の様子を、もう少し詳しく見ていくことにします。 まず、上は若い雌株の花穂(=まだ花が咲いている)の一部を拡大したものです。 白いものはメシベらしいことが分かりますが、どれが1つの花なのか、分かりません。 そこで1つの花を取り出したのが下の写真です。 1本のメシベは3本に分かれた柱頭からなることが分かります。
上と下の写真を、特に柱頭の数に注目して比較すると、複数の雌花が集まった小穂が先の尖った大きな鱗片に保護され、さらにそれらがたくさん集まったのが上の写真だということになります。
下は雄株の花穂の一部です。 花粉を出し終えたたくさんの葯が垂れ下がっています。 複数の花からなる小穂がたくさん集まって花穂を形成している点では、上の雌株の場合と同じです。
コウボウムギは比較的よく発達した砂浜でしか見かけません。 大阪湾でもコウボウムギの見られる砂浜はたいへん少なくなってしまいました。
二色浜(名前は「白砂と青松の二色の浜」から)でも、海水浴場としての養浜や、阪神高速湾岸線の工事(平成3年)のために、一時はたいへん減少したのですが、どうにか生き残り、その後次第に群落が回復して現在に至っています。
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