ヤマコウバシ-落葉樹とは-
セツブンソウやバイカオウレンなど、早春の花が咲きだしている今日このごろ、山道を歩くと、まだ茶色くなった葉をたくさんつけている木に出会います。 ヤマコウバシです。
ヤマコウバシはクスノキ科に分類される低木で、葉をもんでみたり枝を折ると、香気があります。 「山にある香ばしいかおりのする木」です。
もちろん立ち枯れているわけではありません。 クスノキ科らしい丸みを持った芽をみると、春に備えて準備万端と言わんばかりです。
光合成を行うには細胞内の化学反応が進行する必要があります。 温度が低い冬は酵素反応である化学反応が進みにくく、光合成の効率が落ちます。 光合成がちゃんとできないのに表面積の大きな葉をつけていると、葉の表面から生命維持になくてはならない水分が蒸発し、危険です。 寒さで根の細胞の働きも弱くなって十分吸水できない条件では、なおさらです。 それならいっそ葉を落としてしまおう・・・ これが夏緑樹の生存戦略です。
※ 落葉樹には冬に葉を落とす夏緑樹や、乾季に葉を落とす雨緑樹があります。
夏緑樹の葉は寒くなると落ちてしまうのではなく、夏緑樹は積極的に葉を落とします。 再利用できる物質は枝や幹に回収し、葉の付け根に「離層」という壁を作り、枝と葉の連絡を断ちます。
常緑のままで冬を越そうとすると、葉を厚く丈夫にし、葉からの水分の蒸散を防ぐために葉の表面にワックスの一種であるクチクラ層を発達させるなど、工夫が要ります。
このように夏緑樹の落葉は、葉に元手をかけずに冬を乗り切ろうとする植物の適応戦略の一つです。 ところが、暖かい所に分布の中心を持つ植物のグループで、日本のような所に分布を広げてきた植物のグループのなかには、「完全に落葉樹になりきれていない落葉樹」があります。 ヤマコウバシもそのうちの一種です。 ヤマコウバシの属するクスノキ科は、暖温帯熱帯、特にアジア南東部やブラジルに分布の中心を持つグループです。
タブノキやクスノキなどのクスノキ科と共に日本の高木を代表するブナ科も、亜熱帯や暖温帯に分布の中心を持つグループです。 ブナ科の木でも落葉できないでいる落葉樹を見ることができます。 茶色い葉をたくさんつけているクヌギやコナラを見ることがありますし、ブナだって条件によっては葉をつけたままで冬を迎えることがあることは、こちらで紹介しています。
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コメント
枯れて茶色のままで落ちない葉っぱ、
まさに植物の生き抜く戦略でしょうか。
”落ちない葉っぱプレゼント”
「園長さんと季節を歩く」に参加の先着30名様に「ヤマコウバシ」の葉っぱをプレゼントします(京都府立植物園)
と、いうことで、ラミネートしたヤマコウバシの葉っぱをいただいたんですよ、なんでも受験生に人気があるそうです。
投稿: わんちゃん | 2012年2月22日 (水) 17時21分
ヤマコウバシの場合は、落葉しないかわりに、“ほんとうの”落葉樹よりは丈夫な葉を持っています。
完全に落葉樹になりきれていない常緑樹の葉の性質も少し残した葉と言っていいのでしょうね。
受験生には「落ちないおまじない」としてよりは「しぶとくしがみつく」根性を思いだすためのシンボルにしてほしいものです。
投稿: そよかぜ | 2012年2月22日 (水) 22時00分