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2012年2月22日 (水)

トゲキジラミ

 シロダモの葉の裏にトゲキジラミがいました(2月19日)。 成虫、卵、複数の齢の幼虫が揃っています。 下の写真(クリックで拡大します)で、白っぽい小さな粒が卵、黄色いのが幼虫です。

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 トゲキジラミは、なかなかおもしろい虫で、成虫はその名のとおり、頭にも胸部にも、そして透明な翅の翅脈上にも剛毛を生やし、触角は黒と白の斑です(下の写真)。 ただし体長は2mmほどと、キジラミの中でも小型ですので、その形態のおもしろさは、私のカメラでは、うまく伝わらないかもしれませんが・・・。

Togekijirami120219_2

 トゲキジラミは1949年に発見されたキジラミで、比較的まとまっていてインターネットで読むことのできるものとしては、宮武頼夫氏が1970年に「大阪市立自然史博物館研究報告」に書かれたものがあります(こちら:ただし英文です)。

 「キジラミ」とは「木の虱」、つまり木の汁を吸って生きるアブラムシやカイガラムシに近い仲間です。 このブログではこれまでに、キジラミの成虫としては、ヤツデキジラミムクノトガリキジラミを載せています。 多くのキジラミでは、これらのように翅を山形(屋根型)にたたみますが、トゲキジラミは翅を平らにたたみます。 この点でも、トゲキジラミはキジラミの中でも“変わり者”です。
 上の写真で、成虫は白色のロウ物質をさかんに分泌し、それが糸状になっています。 上に書いたように、キジラミは葉の維管束を流れる汁を吸っているのですが、葉は光合成の“工場”ですから、この汁は栄養的にはかなり炭水化物(元素としては C,H,O )に偏ってしまいます。 ですから、わずかしか含まれない他の栄養素(元素としては N など)を摂るためには、たくさん植物の汁を吸い、摂りすぎた炭水化物をこのような形に変えて捨てなければならないのでしょう。 下のトゲキジラミは、白いロウ物質以外に、お尻からは、アブラムシの甘露のようなものを出しています。 これも同様の理由でしょう。

Togekijirami120219_1

 最初の写真で、白い糸状の物質は、成虫の体から離れた所にも散らばっています。 成虫の体についているものも、動けば取れてしまうでしょう。 ですから、写真のような状態は、活動が盛んでない寒い時期にしか見られないものでしょう。

 下は幼虫です。 左上の幼虫は、やはりロウ物質を出しています。 また大きな幼虫では、よく見ると、体の周囲に細い糸状のものが見られます。 これもロウ物質だと思いますが、もしかしたら錨のような役割もしているのかもしれませんね。
 キジラミの幼虫としては、前にカシトガリキジラミの幼虫を載せていますが、体の扁平さなど、よく似た点も見られます。

Togekijirami120219_4

 ところで、ここに載せた写真の舞台はシロダモの葉の裏だと書きました。 今までに幼虫も含めたトゲキジラミが観察されている葉は、シロダモ以外には、カナクギノキ、アブラチャン、ヤマコウバシなどのクスノキ科の植物です。 しかし成虫のみに限れば、クスノキ科以外でも、たまたま飛んできたとは考えられないケースもあるようで、別の科の植物に二次寄生している可能性も捨て切れません。
 インターネットや上記の文献でも、トゲキジラミは虫えいを作るとあります。 しかし上の写真では、虫えいらしきものは形成されていません。 たぶん幼虫が動き回らずに時間をかけてゆっくり成長する段階では、虫えいを作ることもあるのだと思います。

 上記のように、トゲキジラミは比較的最近に発見された昆虫で、まだまだその生活史は分かっていない部分も多くあります。 一方でその特徴的な姿は、小さな虫を撮る人たちの間では“人気者”で、いろんなブログの記事として取り上げられています。 そこで、生活史を知る助けになるかと思い、他のブログやHPで取り上げられている(私の目にとまった)トゲキジラミについて、観察日順に整理してみました。(工夫された機材ですばらしい写真を撮っておられる人の何と多いことか・・・)
 これをまとめるに当たっては、うまくコメントが送れなかったりで、無断でデータとして使用させてもらう形になってしまったり、写真から私の判断で書いた内容もありますので、誤り等がありましたら、ご連絡ください。 データとして利用させていただいた皆様には、この場を借りてお礼申し上げます。 なお、撮影月日で( )は撮影された日ではなく記事の日付です。

撮影月日    段階    ロウ物質   植物名    記載ブログ等
12月08日    成 虫       無     (飛来)      成城の動植物
12月29日    成虫・卵    有     (無記載)  ご近所の小さな生き物たち
01月25日    幼虫・成虫 有      シロダモ    路上ネイチャー協会
01月29日    卵~成虫   有     クスノキ    ムシをデザインしたのはダレ?
02月04日    卵 ・ 成虫   有     シロダモ    星庵徒然
02月12日    卵~成虫   有     シロダモ    どっこい生きてる
( 03/16 )    卵~成虫   有     シロダモ    いもむしうんちは雨の音
04月11日    成 虫       無     (無記載)    長池公園生き物図鑑
04月12日    幼虫・成虫 有      シロダモ    むしなび
04月13日    成 虫       無      シデ類に複数  長坂蛾庭
04月25日    成 虫       無      アベマキに1頭  明石・神戸の虫 ときどきプランクトン
05月01日    成虫(交尾) 無    アブラチャン(標高1,000m)    むしなび
05月15日    成 虫       無     (無記載)    ご近所の小さな生き物たち

 フッカーSさんからは、上のデータを補強する観察記録をいただきました(コメント欄)。 ありがとうございます。

 これを見ると、成虫は12月~5月に観察されています。 そして4月になれば、成虫の行動が活発化し、ロウ物質を体につけている状態を脱するようです。 しかし生活史については、次のように、いろいろ疑問が残ります。

  • 他の時期には成虫はいないのか、ブログなどに載せられていないだけなのか。 もし夏に成虫がいないとするなら、幼虫で夏を過ごしているのか。
  • 成虫は年1回の発生で、12月に出現しはじめ、5月まで生き延びる個体もいるのか、それともこの間、何回か発生しているのか。 私の撮った写真では、卵も様々な段階の幼虫も成虫も混じって写っていますが、産み落とされた卵はすぐに孵化し、幼虫は脱皮を繰り返しで成長し、ある程度齢が進んだ段階で長い休みに入ることも考えられます。

 これまでのデータを見る限り、寒い時期に幼虫が脱皮を繰り返し、かなりのスピードで成長しているようです。 もしかしたら、光合成が活発でない寒い時期こそ、植物の篩管液中の炭水化物濃度が下がり、相対的にアミノ酸等の濃度が高くなり、成長には都合がいいのかもしれません。(栄養成分を分析してくれる所が無いかな~)

 アーチャーンさん(成城の動植物)やHepotaさん(長坂蛾庭)から、似た近縁種がいることを知らせていただきました。 そのことを踏まえ、生活史についても今後もう少し慎重に検討する必要がありそうです。

※ トゲキジラミの幼虫(と思われるもの)の3月の様子をこちらに載せました。('12年3月26日)

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コメント

引用とリンクの報告ありがとうございます。
私はいろんな虫の写真を撮ってますが、個々の虫についてそれほど深い考察はしてませんので、貴ブログの記事は大変興味深く拝見させていただきました。
一応、私の撮ったトゲキジラミのデータをチェックしてみましたので、参考になさってください。

12月11日/成虫・卵/ロウ有/シロダモ
12月15日/成虫・卵/ロウ有/シロダモ
1月1日/成虫・卵・若~中幼虫/ロウ有/シロダモ
1月19日/成虫・卵・若~中幼虫/ロウ有/シロダモ
2月2日/成虫・卵・若幼虫/ロウ有/シロダモ
2月10日/成虫・卵・若幼虫/ロウ有/シロダモ
2月27日/成虫・卵・若~中幼虫/ロウ有/シロダモ
3月 未確認
4月10日/成虫/ロウ無/飛来
4月15日/成虫/ロウ無/飛来
4月15日/成虫・中~終幼虫/ロウ無/シロダモ
5~11月 未確認

3月は未確認ですが、間もなく3月になりますので、忘れずに探してみたいと思います。5~11月は虫えいの可能性も含めて、これも探してみたいと思います。
私の方では、ロウ物質を分泌していない成虫を見たのは4月のみ。体色が白く、成虫並の大きさになった終齢の幼虫を見たのも4月のみです。私の予想では、ロウ物質を分泌している=せっせと葉の養分を吸っている時期に卵を産んでいると考えますので、産卵期はおそらく12~3月(気温が低い期間)で、4月頃を頭に順番に終齢に達していくと想像してます。幼虫の脱皮については、撮った幼虫のサイズから考えて、最低でも5回以上は脱皮していると思われます。

投稿: フッカーS | 2012年2月23日 (木) 03時36分

フッカーSさん、貴重なデータをありがとうございます。

> 私の予想では、ロウ物質を分泌している=せっせと葉の養分を吸っている時期に卵を産んでいると考えますので、

同感です。やはりどうも12月から卵を産み始めるようですね。

まずは夏と秋の様子をチェックしたいと思います。

投稿: そよかぜ | 2012年2月23日 (木) 21時01分

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