死環②
前回の死環①で、死環は熱による細胞の破壊の結果、新しい酵素反応が起こり、水溶性タンニンが難水溶性タンニンに変化するために生じるのだと書きました。
タンニンとは分子構造に共通点を持つ複数の物質の総称で、1種類ではありません。 いろんなタンニンの一例として、ソヨゴの葉の死環とある意味で似た、柿の水溶性タンニンと難水溶性タンニンを挙げておきます。
渋柿には水溶性のタンニン分子が含まれていて、これが舌の味を感じる部分と反応して渋味を感じます。 一方、甘柿の果肉には、所々褐色の斑紋が見られます。 この斑紋は、水分の多い柿の中で、水と仲良くなれない難水溶性のタンニン分子同士がくっつきあい、目に斑紋として見える大きさにまでなったものです。 このように分子どうしがくっついて大きくなったものは、舌の味を感じる部分と反応するには大きすぎて反応しなくなり、渋くなくなります。 なお、柿の甘みは糖分によるもので、タンニンとは無関係です。 渋柿にも糖分はありますから、渋柿の水溶性タンニンをいろんな処理(いわゆる渋抜き)をして難水溶性のタンニンに変えると、渋みに隠されていた甘さが分かるようになります。
ソヨゴはたいへん死環を作りやすい葉ですので、これまでソヨゴの葉を使ってきましたが、死環はソヨゴに特有なものではありません。 上に書いたように、タンニンは1種類ではなく、植物によって持っている種類も量も異なりますが、多くの植物が持っている物質です。 また植物の持つ酵素も種によって微妙に異なります。 つまり、植物によって、死環のできるものもできないものもあり、死環のできるものも、色が褐色であったり黒色であったり、死環の現れるまでの時間も異なります。 言い換えれば、死環を見ることは、名前の分からない植物の名前を知る1つのヒントにもなるかもしれません。
モチノキ科やモクセイ科の常緑樹は、ほとんど死環が出るのですが、他にもツバキ科のモッコク、スイカズラ科のサンゴジュ、バラ科のシャリンバイやバクチノキ、ミズキ科のアオキ、ツツジ科のシャシャンボ、トベラ科のトベラ、クスノキ科のタブノキ、モクセイ科のキンモクセイなど、多くの科の植物で死環を見ることができます。 また死環が現れるのに時間がかかる植物としては、タイミンタチバナ、クスドイゲ、ヒメユズリハなどがあります。
クロガネモチの葉の表の死環(上)とキンモクセイの葉の裏の死環(下)
細胞の破壊の結果として死環が生じるのだとすれば、細胞が破壊される要因が熱以外の場合でも、褐色の物質は作られるはずです。
事実、死環が生じる植物の葉を、細胞が壊れるように圧迫してやっても、褐色の物質が生じます。 ただ、葉の破れやすい植物や細胞の壊れにくい葉もあり、死環のようにきれいな結果が出るとは限りませんが・・・。
下はソヨゴの葉を先の丸い棒で強くこすった結果です。
なお、このような変化は生きている組織内の化学変化として起こるものですから、元気な葉で行う方が、結果はきれいに出るようです。
【理解度テスト】
死環①と死環②を読んでいただき、死環のできかたは理解していただけたでしょうか。 では死環のできるしくみからして、死環の近くを熱して、再度死環を作らせるとどうなるでしょうか。
下の図の「0」のように、死環のできた葉の×の位置を熱すると、どのようになるでしょうか。 下の図の「1~3」から正解に最も近いと思われる番号を選んでください。
正解はこちらです。
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