シダ植物の前葉体
今までこのブログにも、いろんなシダ植物が登場し、そこでも書いてきたように、シダ植物は胞子で増えます。 しかし胞子そのものの作られ方は、種子植物の花の受粉のように有性生殖により作られるものではありません。
有性生殖は、オスとメスあるいは2個体のさまざまな遺伝子を混ぜ合わせ、遺伝的多様性を生み出す元となっています。 遺伝的に多様であることによって、進化も起こり、環境が変化してもどれかの個体が生き残る可能性が生じるわけです。
シダ植物には有性生殖は無いのでしょうか。 結論を先に出してしまうと、一部を除き、多くのシダ植物は、下に書くように、有性生殖を行います。
シダ植物の葉から飛散した胞子がその後の生長に適した所に落ちることができると、前葉体というものが作られます。 下の写真が、その前葉体です。
下の写真には前葉体が3つ写っています。 大きさは1cmもありません。 ハート型をしていますが、多くの種類のシダで前葉体はこのような形になります。 写真は何というシダの前葉体かは分かりません。
「前葉体」の名前は、私たちがよく見るシダの葉になる前の体という意味でしょうが、この前葉体に造卵器と造精器がつくられ、そこで卵細胞と精子が作られます(顕微鏡レベルの大きさです)。 この精子が雨や水がかかった時に泳いで卵細胞にたどりつき、受精卵となり、この受精卵が細胞分裂してシダの幼植物になっていきます(下の写真)。
生殖活動できるということは、生物にとって“大人(おとな)”です。 卵細胞や精子をつくる前葉体は、姿は小さくても“大人”ということになります。 つまりシダには2種類の“大人”の姿があり、1つは私たちが普段よく目にする、胞子を作る(=無性生殖をする)シダであり、もう1つは有性生殖をする前葉体である、ということになります。 1種類のシダに2種類の“大人”の姿があるわけですから、別の名前が要ります。 そこで、私たちが普段目にする胞子をつける体の方を「胞子体」と呼びます。 前葉体は配偶子(=卵細胞や精子)を作るわけですから、「配偶体」とも呼ばれます。
前葉体は小さいので、普段私たちは無視してしまいます。 ウラジロに2種類の体があるからといって、わざわざ「胞子体のウラジロ」とは言いません。 しかし、上に書いたように、シダ植物の前葉体と胞子体は、決してオタマジャクシとカエルの関係ではありません。 オタマジャクシは、姿は違っても、カエルの子供です。 しかし前葉体は、いくら小さくても“大人”であり、決して子供の姿ではありません。 たしかに前葉体は胞子体の胞子からできますが、その胞子体は前葉体から生まれます。
同一種の“大人”の姿に2種類あるというのは、動物では考えられません。 植物を理解するためには、動物の常識から離れなければなりません。
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