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2011年8月25日 (木)

ツユクサ(2)

 時々、1つの苞から2つの花を咲かせているツユクサを見かけます(下の写真)。 まずはこの花で、昨日記事にしたツユクサの花のつくりを復習してみてください。

Tuyukusa070915_1

 上の写真で、全ては見えていませんが、ガク片と花弁は理解していただけたでしょうか。 長いオシベも中くらいのオシベもたくさんの花粉を出しています。 そしてメシベは・・・。 上の花にはメシベがありません!
 じつはツユクサの花にはオシベとメシベが揃っている、つまり雄性と雌性が揃っている両性花と、メシベが退化している雄花とがあります。 上の写真のように、両者は一見区別がつきません。
 下の写真のツユクサも、1つの苞から2つの花を咲かせています。 しかしこちらの花は、2つとも両性花です。

Tuyukusa080915_1

 下は上の写真の苞を破り、その内側を見たものです。 ツユクサの花柄は、苞の中で上下2本に分かれています。 理解のしかたとしては、苞も葉の変化したものですから、頂芽が伸びたものと、苞の腋芽が伸びたものとの2本と考えればいいでしょう。
 上の写真の下の花柄には3個のツボミも見えます。

Tuyukusa080915_2

 下は別の株ですが、上よりも時間が経過した状態で、果実ができています。 ツユクサは1つの果実の中に4つの種子まで育つことができ、その場合は果実の真ん中にくびれができます。
 上の写真と下の写真で、たまたま花の数は同じです。 下の写真では、上の花柄には1つの花が咲き、果実ができています。 つまり両性花だったということになります。 下の花柄では最初に咲いた花と2番目に咲いた花は両性花で果実ができ、3番目に咲いた花には果実はできていません。 3番目に咲いた花は、たぶん雄花だったのでしょう。 4番目の花は、まだツボミです。

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 上の花柄に咲く花は1~2個です。 たくさんの花を咲かせるのは、つまり生殖活動の中心になるのは下の花柄に咲く花です。
 両性花と雄花の関係については、上の花柄に咲く花は、雄花であることが多いのですが、両性花を咲かせる場合もあります。 どうも花の咲き始めの時期では両性花が多く、後に咲くものは雄花が多いようだということです。 また、下の花柄に咲く花は、最初のうちは両性花を咲かせているのですが、後になって咲く花は雄花になるようです。 あまりたくさん種子を生産しようとすると、栄養分の補給ができなくなるのでしょう。

 ここまで読んでいただいて、驚くべき結論に気が付かれたでしょうか。 ツユクサの花はたった半日しか咲かないのに、種子を作ることのできる両性花は、ほぼ全ての両性花が、と言っていいほど、種子を作っているのです! しかし、ツユクサの花に、そんなにたくさん花粉媒介をする昆虫が来ているとは思えません。
 じつは多くのツユクサの花では、花の咲き始めから、ほとんど(山田:1991によれば93%)の花の柱頭に花粉がついています。 つまり同花受粉です。 ツユクサでは自身の花粉が柱頭についても、ちゃんと種子が作られることが確認されています。 そして、花粉媒介をしてくれる昆虫が来てくれたら他家受粉も行い、遺伝的多様性を保とうとしているのでしょう。
 そしてさらに念のために、とでもいうのでしょうか、花が閉じる時に長いオシベとメシベはいっしょになってクルクルと花の中心部へと巻き込まれていくのですが、この時にまた長いオシベの葯とメシベの柱頭は接触することになります。
 つまりツユクサの両性花は、他家受粉できなかった花(この方が多い)についても、ほぼ完全に同花受粉はしている、ということになります。
 さらに、同花受粉でいいのなら、閉鎖花でもいいのではないかということになります。 実際、ツユクサの花は、苞の外に出ず、苞の内側に隠れたまま、そっと種子を作っている閉鎖花も咲かせています。 この閉鎖花は、気温が下がる花の終わりの時期に多くみられるようです。 花を開く元気がなくなっても、自身の花粉で種子は作れる、ということかもしれません。

 ツユクサとは、両性花と雄花をバランスよく配置して種子の生産量を調節し、花のつくりを工夫して訪花昆虫による他家受粉も行いながらも、それが不可能な場合には同花受粉で確実に種子を作る、という植物だったのです。
 ツユクサの花の花弁もガク片も薄く、たしかに長持ちしそうな花ではありません。 ツユクサの戦略とは、元手をかけずに、目立ち、かつ受粉のうまいしくみを持った花を作り、そんな元手のかかっていない花でも種子は確実に作り、その種子は丈夫な苞でしっかり守っていくという戦略のようです。

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コメント

そよかぜさん、おはようございます。
ツユクサについてはなかなかさんのブログでたくさんのことを教えていただきましたが、まだ不思議があったんですね。興味深く読ませていただきました。
ツユクサに雄花があるということも知りませんでした。
それから、閉鎖花は、その植物に適した気温から外れるとできやすくなるのかな、と今年閉鎖花ばかりのツキミマンテマを思い浮かべました。それで、来年にむけての対策を考えました 笑

投稿: panda | 2011年8月25日 (木) 07時58分

以前、写真のような二輪くっついたツユクサに出合って、いろいろと教えていただきました。
今、庭のキンモクセイの根元をツユクサが占拠してます

>驚くべき結論に気が付かれたでしょうか。

気が付いてないわんちゃんです。
せんないことですね。

投稿: わんちゃん | 2011年8月25日 (木) 22時45分

pandaさん、この記事を書くにあたり、なかなかさんのHPなどもいろいろ参考にさせていただきました。
ツユクサに雄花があることは、特に上方に位置する花柄には雄花が多いことは昔からよく知られていて、このことはなかなかさんも書いておられます。
なかなかさんはケツユクサや新しく入ってきたツユクサの仲間などについても書いておられますね。
ツユクサはケツユクサが突然変異で人里近くで増えやすくなったものだと思っていますので、記事に書いたことがどこまでケツユクサにあてはまるのか、いつか調べてみたいと思っています。
閉鎖化になるのかならないのかは、どこかでスイッチの切り替えが行われているのでしょうが、このスイッチの切り替えに関係する要因は植物により違っているのだと思っています。

投稿: そよかぜ | 2011年8月26日 (金) 21時52分

わんちゃん、ツユクサの育つ所は、土にいつも適度な湿り気のある所です。キンモクセイの根元がその条件にあっていたんですね。
ツユクサは1年草ですから、特に発芽期の条件でたくさんのツユクサが見られるかどうかが決まります。毎年たくさんのツユクサの花を見ることができたら良いですね。

投稿: そよかぜ | 2011年8月26日 (金) 21時58分

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