ムラサキツユクサ、原形質流動、そして放射線
ムラサキツユクサのオシベには、たくさんの毛が生えています。 この毛は細胞が1列につながってできているのですが、この毛を顕微鏡で見ると、細胞の中で、細胞を構成している物質が流れて循環しているのが観察できます。 植物だって「生きている」ことを実感できる観察ですが、この現象を「原形質流動」と呼んでいます。 原形質流動は他の植物でも観察することは可能ですが、これは生きている“元気”な細胞でしか観察できません。 細胞を染色すると、原形質流動は止まってしまいます。 ムラサキツユクサのオシベの毛は、細胞の重なりが無く、細胞質に青い色がついていますし、それに流れの速度も速いので、原形質流動の観察材料としては、たいへん適していると言えます。
速い原形質流動が起こっているということは、細胞が活発に活動しているともいえるのですが、大胆に言ってしまえば、活動の活発なものほど様々な影響を受けやすいと言えるでしょう。
ムラサキツユクサのオシベの毛は、突然変異で青い色素が作られなくなると、赤くなってしまいます。 当時京都大学におられた市川定夫博士は、2000年前後に、このムラサキツユクサの突然変異が起こる確率と放射線の関係を調べておられます。 その結果は、放射線の強さと突然変異が起こる確率は比例する、というものでした。 つまり、1レム以下の低線量あるいは微量の放射線であっても、確率は低くなるが突然変異は起こる、ということです。 そして、市川定夫博士は、実際に“安全に”稼動している原子力発電所の近くでも、ムラサキツユクサの突然変異の確立が高くなっていることを確認されています。
人間もムラサキツユクサも遺伝子に突然変異が起こるしくみに根本的な違いはありません。 浴びる放射線量がある値を超えると危険だが、それ以下は安全だ、ということではないという事です。 繰り返しになりますが、いくら浴びる放射線量が少なくとも、危険性は少なくなりますが、浴びる放射線量が0であるよりは危険だ、ということです。
現在、東京電力福島第一原発で緊急作業にあたる作業員の被曝(ひばく)線量の上限値に関することがらを、ニュースでよく見聞きするようになりました。 また、周辺地域の安全性についても、数値を用いて説明がなされています。
一般的に、「これ以上では影響が現れる、これ以下では何の影響も無い」という値を「閾(しきい)値」と呼んでいます。 現在の私たちの生活は原子力発電無しでは考えられません。 しかし、いろんな議論をする際に、放射線量に関しては閾値は存在しないことをムラサキツユクサは教えてくれています。
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コメント
今の時期、散歩しててご近所さんの庭先でムラサキツユクサによく出合います。
このお花のいろが大好きでいつも立ち止まってしまいます。
知らなかったこと、教えてくれてる・・・
放射線に色がついていたらなぁって思うわんちゃんです。
投稿: わんちゃん | 2011年6月 2日 (木) 14時46分
すでに10年以上前に放射線の強さとムラサキツユクサの突然変異が起こる確率は比例することを報告された方があったのですね。
興味深く読ませていただきました。
市川定夫博士の「新・環境学 1」はアマゾンで「一時的に在庫切れ」でした。
投稿: 夕菅 | 2011年6月 3日 (金) 00時59分
ガイガーカウンターなどはその瞬間の放射線量を測定するものですが、ムラサキツユクサなどの生物を使うと、過去の放射線量の蓄積を知ることができます。
市川定夫博士の研究は福島第一原発の事故で注目度が増しているようですね。
投稿: そよかぜ | 2011年6月 3日 (金) 06時52分