メナモミの仲間と学名について
日本に自生するメナモミの仲間( Sigesbeckia属 )としては、メナモミ、コメナモミ、ツクシメナモミの3種が知られています。 このブログではメナモミとコメナモミを記事にして、私には両者に違いがあることは分かるが、その明確な区別には自信が無い旨を書きました。
いただいたコメントもあり、メナモミの仲間の学名を調べてみたところ、私の“気分”にピッタリ(?)でしたので、そのことをまとめておきます。
なお、ツクシメナモミは日本では関東南部から南に分布するとされていますが、メナモミやコメナモミよりも暖かい所の植物で、マレーシア、インド、オーストラリア、アフリカなどにも分布しています。
保育社の原色日本植物図鑑(昭和54年発行の改訂51刷)には、上記のメナモミ属の学名は次のようになっています。
メナモミ : Sigesbeckia pubescens Makino
コメナモミ : Sigesbeckia glabrescens Makino
ツクシメナモミ:Sigesbeckia orientalis L.
ここで、Sigesbeckia は人名、pubescens は「軟毛のある」、glabrescens は「やや無毛の」、orientalis は「東洋の」という意味です。
学名はこのように、属名、種小名、命名者の順で書かれます。 簡単に書く場合は命名者を略す場合がありますが、これがあることによって、以下のようなことも分かります。
なお、属名と種小名は、よく姓と名に例えられます。 「○○家の△△さん」で、「○○家」には(顔のよく似た人が)複数いても、「△△さん」で個人が特定できます。 そして属名が同じであれば、互いによく似た植物であることが分かります。 このような命名法は「二名法」と呼ばれ、リンネ(1708~1778)が提案したものです。
上記の学名から、次のことが想像されます。 まず日本でツクシメナモミという名前がつけられることになった植物に対して、リンネが Sigesbeckia orientalis という学名をつけました。
日本の植物を研究していた牧野富太郎博士(1862~1957)は、リンネが発表した植物と同じ植物が日本にもある(ツクシメナモミ)とし、日本にはこの植物に似ているが異なる、もっと普通に見られる2種(メナモミとコメナモミ)があるとして、それぞれに学名をつけました。 つまり、3種のメナモミの仲間は別種だとしたわけです。
ところが、京都大学にいた植物学者で、キク科研究の第一人者とされており、保育社の原色日本植物図鑑の著者の一人でもあった北村四郎博士(1906~2002)は、この3種は別種というほどには違わないと、次のような学名を主張しました。
メナモミ:
Siegesbeckia orientalis L. subsp. pubescens (Makino) Kitam.
コメナモミ:
Siegesbeckia orientalis L. subsp. glabrescens (Makino) Kitam.
ツクシメナモミ:
Siegesbeckia orientalis L.
ここで、subsp. とは亜種であることを意味します。 例えばメナモミはリンネが命名した Siegesbeckia orientalis L. の亜種 pubescens である、ということです。 このように学名を変更する場合には、元の命名者の名前は( )に入れて残しておくことになります。
つまり、メナモミ、コメナモミ、ツクシメナモミは、リンネが発表した種と同種であり、メナモミとコメナモミはリンネが発表した植物とは亜種の関係にあるということです。
これらの経緯は文献をさかのぼり、それぞれの発表された論文の発行年月を見ればもっとはっきりするのでしょうが、リンネと牧野富太郎博士の生きた時代、そして命名者を見れば、上記のことは明らかでしょう。
| 固定リンク
「ノート」カテゴリの記事
- 「昆虫博士入門」の紹介(2014.07.08)
- レンリソウの保護について考える(2014.05.14)
- ヤツデの葉に虫たちが集まる理由(2014.01.12)
- TG-2のスーパーマクロ(2013.12.29)
- 蛾の眼はなぜ光らないのか(2013.12.02)
コメント
U~~Nナルホドと簡単には言えませんわ・・・
でも、時々お花の属名の日本語を読んだとき
ナルホドと思うことがよくあります。
投稿: わんちゃん | 2010年11月10日 (水) 22時43分
学名もうまくつけられていると思う時もありますが、首を傾げたくなるときもありますね。
投稿: そよかぜ | 2010年11月10日 (水) 22時58分
Great work keep it coming
投稿: Ron Tedwater | 2010年11月13日 (土) 16時11分