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2009年11月 8日 (日)

オケラ ②

 オケラは雌雄異株と言われています。 雌花では柱頭が開き、雄花では柱頭が閉じていると書かれてあるブログの記事が多いのですが、柱頭が最初はくっついていて、後に2裂するのは多くのキク科で見られることで、このブログでも何度か記事にしました。
 ほんとうに雌雄異株なのか、頭花を割って種子形成の様子を確認したいと、ずっと思っていました。
 オケラの生育地は刈り取り草原や明るいアカマツ林などです。 昨日書いたように、歌に山菜にと、よく目立って親しまれてきたオケラですが、このような生育地の減少とともに、目にすることが少なくなってきました。
 オケラの花期は9月から10月です。 11月1日に久しぶりにオケラに会うことができました。 しかしそんなに株数も無く、個性的な花の様子を撮るだけにして、頭花を割って雌雄異株を確認することは断念しました。

Okera091101_2

 オケラの頭花は筒状花のみからなります。 花弁は細く長く伸びているのですが、花弁も白、メシベも白で、何がなんだか分りにくくなっています。 しかし、上の写真の左側の花はほぼ終わりで、花弁が褐色になってしまっていますので、花のつくりが分りやすくなっています。
 オケラの花が特徴的に見えるのは、頭花に総苞があるのは他のキク科の花と同じなのですが、その外側に総苞片とは別に、魚の骨のような苞をもっているためでしょう。
 苞とは花の近くの葉が変化したものです。 オケラの葉は変化が多く、単葉のものも複葉のものもあるのですが、いずれにしても鋭いきょ歯を持っています。 苞は、葉が細く小さくなるとともに、このきょ歯がさらに大きくなったものと考えればいいでしょう。

 ところで、オケラや中国原産のオオバナオケラの根茎は白朮(ビャクジュツ)と称する生薬です(日本薬局方)。 白朮は芳香性の精油を含み、健胃用などに用いられています。
 オオバナオケラは管状花が淡紫色なのですが、下はこのオオバナオケラを園芸的に品種改良したものです。 花のつくりの理解には、色分けされたこちらの方が分りやすそうです。

Oobanaokera091017_1

【 キク科の受粉に関して 】
 上の写真で、花粉があちこちについていますが、夕菅さんからメシベ・オシベについての質問をいただきました。 上の写真のオオバナオケラの園芸種はメシベ・オシベが色分けされていて分りやすく、ちょうどいい機会ですので、キク科の花のメシベ・オベについて整理しておきます。
 上の写真はたくさんの花(小花)の集まりで、1つの花は5枚の赤い花弁を持っています。 その花弁の中央から細長い棒状のものが突き出していますが、赤褐色の棒にピンクの棒を継ぎ足したようになっていて、花粉はその境目とピンクの頂についています。 じつは赤褐色の部分がオシベの葯で、5本のオシベの葯が互いにくっつき、筒状になっています。 この筒状の中央の穴を通って、ピンクのメシベが上へと伸びてきます。
 花粉は筒状になった内側に出されます。 そしてこの花粉は、下から伸びてくるメシベによって、徐々に筒の外に押し出されます。
 写真を注意して見ると、中央に2本だけ、赤褐色の葯のみで、その上にピンク色のメシベが見えていないものがあります。 そしてこの赤褐色の棒状の先端には、あふれんばかりの花粉が付いています。 この2本については、メシベが花粉を押し出しながら葯の筒の中を伸びつつある状態で、まだ外からは見えていないのです。 多くのキク科の筒状花は頭状花序の周辺部から咲き出して、中央部の小花が咲くのは遅れます。 ですから、他の小花はメシベが長く伸びてしまっているのに、中央部の2つの小花は、まだメシベが葯の筒の中を伸びている最中なのです。 このような状態が続くことで、キク科の花は比較的長時間、花粉を補給し続けることができます。
 押し出された花粉は、葯の筒の上部にもあることになりますが、メシベが筒の長さを超えてもっと長く伸びると、当然メシベの先端にも花粉がついていることになります。 でも、メシベはこの花粉では受粉しません。 昆虫の体に花粉が付いて、花粉を運んでもらいやすくするために、花粉を高く持ち上げているだけです。 上の写真のメシベの柱頭は閉じたままで、受粉できる柱頭の面は、ピンクのメシベの先端が2裂して左右に開いて、はじめて現れます。 なお、もしもオオバナオケラも雌雄異株で、写真のものが雄株であるなら、メシベの役割は花粉を押し出すだけで、ずっとこのままで柱頭が開かずに終わるのかもしれません。

【 八坂神社の「をけら参り」 】(2012.1.14.追記)
 毎年たいへんな賑わいを見せる京都三大祭りのひとつ祇園祭、この祇園祭は八坂神社の祭ですが、白朮祭(をけらさい)もよく知られている八坂神社の神事です。 京都の人たちは「をけら参り」と称し、この神事で焚かれる「をけら火」を火縄に移して持ち帰り、元旦の雑煮を炊く火種などに使います。 火のついたものを電車やバスに持ち込むことはできませんが、燃え残った火縄は「火伏せのお守り」として台所にお祀りしますので、遠方からもたくさんの人がお参りに来られます。
 をけらとはオケラのことで、この白朮祭ではオケラが「削り掛け」=鉋屑(かんなくず)と共に燃やされます。 オケラは燃やすとにおうので、そのにおいが疫神を追い払うと考えられたようです。
 わんちゃんの突撃インタビュー(下のコメント参照)によれば、八坂神社ではこのオケラを今は漢方薬店から入手されているようです。 山菜や生薬などとして用いられていたオケラは、かつては京都市周辺の山麓に広く自生していて大原女(おはらめ)が売り歩いていたようですが、少なくなってしまい、入手困難になっているようです。

 

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コメント

目立たないオケラの花、上手に撮るととってもきれいですね。
またひとつ教えて下さい。
「オオバナオケラを園芸的に品種改良したもの」の写真では長く突き出したシベに花粉がいっぱい付いていて、2裂していないように見えるのですが、これはオシベでしょうか? メシベでしょうか? やっぱり割って子房を確認しないとわからないのでしょうか?


投稿: 夕菅 | 2009年11月 8日 (日) 10時00分

記事に追記しておきました。ご覧ください。

投稿: そよかぜ | 2009年11月 8日 (日) 15時57分

おかげ様でよくわかりました。
メシベの柱頭は閉じたまま花粉を押し出すということだったのですね。
ご親切にありがとうございました。

投稿: 夕菅 | 2009年11月 8日 (日) 18時25分

こんにちは。
オケラは雌雄異株と聞き、いつかは調べてみようと思っていました。こちらを拝見して、一目でわかるようなものではなかったのですね。良くわかりました。有り難うございました。

投稿: 多摩NTの住人 | 2009年11月 8日 (日) 18時34分

やっぱりね、私には謎が謎を呼ぶようなお花に思えてしまいます。

投稿: わんちゃん | 2009年11月 8日 (日) 21時57分

昨日歩いた山ではオケラが7.8本・・・
中で綿毛が出ているものがありました。
黒っぽく枯れたようになる印象があったので、意外でした。
オケラはみな綿毛を出してから、あの不思議な姿になるのでしょうか・・。

投稿: ひとえ | 2009年11月 8日 (日) 22時21分

雌株と雄株があるのなら、前者は種子を作り、後者は種子ができないということでしょうから、オケラのたくさん生えているところで調べてみたいものです。

投稿: そよかぜ | 2009年11月 9日 (月) 07時05分

ウッカリしてました
京都では「をけら火」で元旦の雑煮を炊く火種に使います。
その「をけら火」の「をけら」がこのオケラだなんて・・・
大晦日から元旦の夜明けにかけて八坂さんに「おけら参り」に行きますが、フツー長い縄の先に火をつけてクルクル回しながら持って帰るんです。
大昔にはホンマはこのオケラを乾燥させて束ねて・・・

生オケラに会いに行きたくなりました。
写真を撮られたオケラはどこにいましたか?
けど、秋ですよね?

投稿: わんちゃん | 2012年1月 3日 (火) 22時59分

をけら火はオケラの根茎を用い、この火を長い縄(吉兆縄)に移して持ち帰るのだと思っていたのですが、昔は持ち帰るのもオケラの根茎を使っていたのですか。
写真のオケラは六甲山系の山麓で撮ったものですが、京都の大原あたりには多いと聞きました。また京都府立植物園では、ここ数年は毎年秋に鉢植えのオケラを展示しているようですよ。

投稿: そよかぜ | 2012年1月 3日 (火) 23時57分

>昔は持ち帰るのもオケラの根茎を使っていたのですか。

ご長老からのまた聞きなんですけど・・・

六甲山系の山麓、京都の大原あたり
自生地で会ってみたいのはやまやまですけど
それよりも、京都府立植物園に期待します。

投稿: わんちゃん | 2012年1月 4日 (水) 13時33分

機会があれば、八坂さんに、今でもオケラを燃やしているのか、そのオケラはどのようにして入手しているのか、聞いてみてください。

投稿: そよかぜ | 2012年1月 4日 (水) 23時32分

は~い

投稿: わんちゃん | 2012年1月 5日 (木) 22時22分

取材ありがとう
知らせてもらった内容も含め、記事に追記しておきます。

投稿: そよかぜ | 2012年1月14日 (土) 20時52分

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