アケボノソウの花の変化
前回の記事で、アケボノソウの花粉媒介をする昆虫は、アケボノソウの花に覆いかぶさるようにとまる大型の昆虫ではないかと書きました。
この視点でアケボノソウの花のつくりを見ると、オシベもメシベも、真上から来る昆虫を“想定”して、ちゃんと上を向いています。
しかし、もっと詳しく見ると、もっとすばらしいしくみを持っています。
アケボノソウの咲いたばかりの花を見ると、オシベがメシベのすぐ側にあります。 換言すれば花弁に垂直に近い位置関係で、真上に向かって花粉を出しています。 そしてこの時、メシベの先端は尖っています。 つまり柱頭はまだ開いておらず、受粉することはできません。
つまり、この時期は自分の花粉を自分のメシベに受粉させることはできず、花粉を出すだけの雄性期なのです。
そして時を経るにつれ、オシベは花粉を出し終え、次第に横を向いていきます。 場合によっては、もう葯は取れてしまって無くなっている場合もあります。
それと並行して、メシベの先端の柱頭が開き、花粉を受け取る体制が整ってきます。 つまり雌性期です。
花に覆いかぶさるように来る昆虫の腹に触れるのは、上を向いたメシベの柱頭で、ここで昆虫の腹についた花粉を受け取るということになります。
下の写真の花では、オシベの葯は全て取れてしまい、花糸は水平近くにまで開いています。
ところで、アケボノソウの花弁は、大型の昆虫がつかまっても耐えられるように、丈夫に作られているようです。 花弁には、その一部に蜜を作る“工場”さえ設置できるような厚みもあります。
この丈夫な花弁は受粉後も残り、閉じていき、一見ツボミに戻ったような状態になります。 もちろんツボミに戻るわけは無く、ツボミの花弁は螺旋形にねじれていますが、花が咲いた後の“偽ツボミ”はねじれていません。 場合によっては、花粉を出し終えて横を向いたオシベを放置して閉じるものですから、花弁の間からオシベ(の花糸)が飛び出している状態になります。
上の写真の右下の花(少しボケています)は、まさに花弁が閉じようとしている状態です。 また下の写真では、2つの雌性期の花と3つの“偽ツボミ”が写っていて、“偽ツボミ”はどれも花弁の間から花糸を出しています。
アケボノソウは、このように閉じた花弁で、子房が果実に変化するのを保護しているのでしょう。 花後にガクが残って子房を保護する花はたくさんありますが、花後に花弁も子房の保護に働く花は稀だと思います。
花弁に保護され、子房は生長します。 下の写真では、子房が伸びて花弁より長くなっています。
【まとめ】
- アケボノソウの花は大型の昆虫による花粉媒介に適したつくりになっている。
- アケボノソウの花弁はそれに耐えられる丈夫さを持っている。
- 丈夫な花弁は子房の保護にも使われる。
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コメント
鮮明に良く撮れてる写真を見ながら
専門用語をクリアしながら
まとめ1,2,3へと・・・・・
またもういっぺん繰り返して・・・・
あんなちいさな花なのに・・・・
投稿: わんちゃん | 2009年10月15日 (木) 17時07分
そよかぜさんの仮説ごもっともと思いつつも、アケボノソウ大好きなわたしは、今年時期を変え場所を変え何度もアケボノソウに会ったのですが、一度として大型の昆虫がアケボノソウと戯れてる姿を見たことがなくて・・・。
来期に経験による納得はもちこしで~す。
蕾からシベが出てるというわたしの早とちり、偽蕾だったのですね。アケボノソウ独特の保護本能なのですね。
なんで蕾と間違えたかと考えたら・・再び閉じた蕾状のものに、まだ葯が残った雄しべもあったからでした。これは個体差??
投稿: ひとえ | 2009年10月15日 (木) 21時07分
わんちゃん、【まとめ】は事実のまとめではなく、現時点で私が考えていることのまとめですので、この考えが正しいかどうか、今後もまだ観察が必要です。
ひとえさん、大型の昆虫にとってアケボノソウの花の蜜は一舐めで終わりになる蜜の量ですから、花にいる時間はきわめて短い時間だと思います。ですから、大型の昆虫が来ていても、あまり注意を払わなかったのではないかと思います。
私もアケボノソウに大型の昆虫が来ているのをほとんど見ないということは気になっていますので、これからも要観察だと思っています。
花弁が花の後にも残っていることに気付いたのもひとえさんがBBSに送ってくれた写真でした。
葯が残っているのか落ちてしまっているのか、もしかしたら大型の昆虫に荒々しく触られて落ちてしまうこともあるのかもしれません。
種子のできぐあいと葯の落ち具合との関係も調べておく必要がありますね。
投稿: そよかぜ | 2009年10月15日 (木) 23時06分