サワギキョウ
六甲高山植物園でサワギキョウの花がまだ残っていました。 花の盛りを過ぎて茎の頂部にわずかに花が残っているだけですが、鳥が羽を広げたような優雅な姿には変わりありません。
サワギキョウは北海道から九州までの山地の湿った草地や湿原などに自生します。 この花を見ると、大阪府下の周辺に田畑が残る町で育った私が、信州の湿地で最初にこのサワギキョウの花に囲まれた時に、その美しさと変わった花の姿に感動した思い出がよみがえります。
サワギキョウはキキョウ科に分類されていますが、いわゆる一般的なキキョウ科の多くの花とはかなり様子が違っています。 合弁花ではありますが、花冠は5裂し、左右(上唇といいます)と下(下唇といいます)に偏って配置されています。 そして、その上唇間の深い切れ込みの間から、5本のオシベがくっつきあって筒状になったものが突き出し、上でカーブしています。
上の写真、くっつきあったオシベの葯の中央から、白く短い棒状のものが突き出しています。 昆虫が飛来してこの棒状の部分に触れると、花粉がこぼれ出て、昆虫の背中につくしくみになっています。
じつはこの白い棒状のものは、下方の葯の先端に生えている毛の束です。 メシベが見当たりませんが、この時期のメシベは、筒状にくっつきあったオシベの真ん中に隠されていて受粉能力はありません。 つまり雄性期です。
上の状態から時を経て、花は下の写真のように変化します。 オシベの葯はしおれ気味で、代わってメシベが伸びて葯の間から顔を出し、柱頭が大きく開いています。 メシベが受粉することのできる雌性期で、背中にサワギキョウの花粉をつけた昆虫が飛来すれば、この柱頭で受粉することでしょう。
上記のような花のつくりや受粉のしくみなどは、田の畦などに見られるミゾカクシ(アゼムシロ)とたいへんよく似ています。 ミゾカクシとサワギキョウは同じLoberia属で、ミゾカクシの花はサワギキョウの花を小さくしたようなつくりです。
※1 ロベリアの仲間はロベリンというアルカロイドを持っていて、末梢の化学受容器に作用して呼吸興奮作用を示します。 少量なら薬として作用し、禁煙補助剤にも使われているようですが、量が多くなると毒で、横溝正史の推理小説『悪魔の手毬唄』に出てくる「お庄屋殺し」は、このサワギキョウだともトリカブトだとも言われています。
※2 10月4日に秋の六甲高山植物園を訪れました。 これから暫くは、この日に見た植物をシリーズで紹介していく予定です。
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コメント
初めて見る花に出会ったとき、その花の美しさに見とれる私です。
>変わった花の姿に感動・・・
さすがそよかぜさんやなぁ~~
秋の高山に咲く花って?
う~~ん あれかな?これかな?
ところで信州で初めてこの花をご覧になった時、その様子は?
もっとお花が茎のどのあたりまで咲いていたのでしょうか?
想像するのに、ビッシリ?
投稿: わんちゃん | 2008年10月 5日 (日) 18時58分
信州の湿原でこの花を見たのは8月でした。下から順に咲き始めるので、ビッシリとまではいきませんが、たくさんの花の上にはツボミが連なり、スマートでしたよ。
オシベとメシベの関係、少し書き直しました。
投稿: そよかぜ | 2008年10月 6日 (月) 06時48分