アキノエノコログサ
よく見かけるエノコログサ(ネコジャラシ)の仲間に、エノコログサ、キンエノコロ、アキノエノコログサなどがあります。 花の時期も、ほぼこの順序で、少しずつ違います。
9月16日にキンエノコロの記事を載せました。 今回はアキノエノコログサを中心に取り上げます。
アキノエノコログサは、色はエノコログサにそっくりな場合が多いのですが、花穂がエノコログサのように直立せず、写真のように垂れます。
でも、植物全体の姿や色は、生育条件や環境によって変化します。 根本的な違いは、花や種子によく現れます。 大切な次の世代の子供を作ることに関しては、そう簡単に変化させられないのです。
下の写真は、小穂(しょうすい)の様子を比較したもので、左がアキノエノコログサ、右がキンエノコロです。 上下は表裏の関係にあります。 両者の違いが分かりますか? その前に、この小穂のつくりについて説明しておきます。 見かけ以上に複雑です。 お覚悟を・・・。
イネ科のはなのつくりについては、9月4日のジュズダマのところで書きましたが、再度書いておきます。
通常の植物の花に相当するもの(ガクや花弁は退化しています)は、花を保護する2枚の葉の変化したもの(「護頴」と「内頴」)に守られていて、このセットを「小花」といいます。 そして、いくつかの小花からなる集団を、さらに2枚の葉が変化した「包頴」が保護し、これ全体を「小穂(しょうすい)」といいます。
秋のイネ科には、2つの小花からなる小穂が多く、エノコログサの仲間の小穂も2つの小花(下方小花と上方小花)からなります。 ただし、エノコログサの仲間では、下の小花(下方小花)は護頴だけを残して退化消失し、残った護頴は上方小花の保護に使われます。 結果として、できてくる種子を、葉の変化したもので何重にも取り囲んで保護することになります。
以上、花の中心部からそれを取り巻く外側へと説明しましたが、今度は下の小穂の写真で、外側から内側へと見ていきます(数字は写真につけてある番号です)。
1は第1包頴、2は第2包頴です。 3は下方小花の護頴です(上に書いたように、下方小花の他の部分は退化消失しています)。 そして4が上方小花の護頴です。 写真には写りませんが、果実はさらに、4の内側にあって3に接するような形で存在する内頴に守られています。
さて、アキノエノコログサ(写真の左)とキンエノコロ(写真の右)とを見分けるポイントです。 両者の違いは第2包頴(写真の数字の2)の長さにあります。 キンエノコロでは第2包頴が短く、上方小花の護頴(写真の4)が、アキノエノコログサに比べて大きく露出しています。 ちなみにエノコログサでは、第2包頴はもっと長く、上方小花の護頴は第2包頴に完全に覆われて、外からは見えません。
※ このような観察にはルーペが必要です。 最初の写真をクリックし、画面の上の「表示サイズ」の「元画像」を選ぶと、1600×1200まで拡大できますので、肉眼で観察するよりは大きく見えるのですが、それでも2枚目の写真のような観察は無理でしょう。
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コメント
エノコログサを小穂一つから見分けようという面白い企画ですね。全体のイメージから決めてかかっていることが多かったと思いますが、アキノエノコログサは余りよく知りませんでした。今度ふつうのエノコログサと区別するようにします。
それにしてもイネ科やカヤツリグサ科は識別が大変ですね。昆虫でいえばハエのような難しさでしょうか(笑)。
投稿: タロ | 2007年9月30日 (日) 01時25分
> イネ科やカヤツリグサ科は識別が大変ですね。
> 昆虫でいえばハエのような難しさでしょうか。
イネ科やカヤツリグサ科は、花や果実のつくりが肉眼では分かりにくいだけで、帰化種を除けば日本で新しい種が発見される可能性はまず無いでしょうが、ハエやハチの仲間はまだまだ記載されていない種がたくさんある状況で、いくら熱心に調べても種名にたどり着けない状況とは、かなり違うと思います。
要は、イネ科やカヤツリグサ科は、昆虫のように動きが無いし、肉眼レベルではきれいな花でもないし、あまり注目されないということでしょうね。
このブログでは、少し拡大したときの美しさやおもしろさをお伝えできればと思っています。
投稿: そよかぜ | 2007年9月30日 (日) 10時11分
はじめて投稿いたします。大変勉強になりました。ありがとうございます。
ところで,図鑑によって用語が違うので確認したいのですが,間違いないでしょうか。
護頴=外花頴
内頴=内花頴
よろしくお願いします。
投稿: kuwachan | 2007年9月30日 (日) 11時11分
はじめまして。
kuwachanさん(とお呼びしていいのかどうか。~chan と さん が重なるのもおかしいですが・・・)のブログも拝見しました。やはり植物や昆虫など、幅広くやっておられるのですね。これからもおつきあいをよろしくお願いします。
さて、イネ科の用語ですが、研究者によって使う用語が違うのでややこしいですね。
結論から言うと、護頴=外花頴、内頴=内花頴 です。
用語を統一しようと、1990年に当時の文部省が出した案では、外苞穎、内苞穎、外花穎、内花穎 となっていますが、現在多く使われているのは、第1苞穎、第2苞穎、護穎、内穎 のようです。
私も記事の中で、分かりやすさを優先させ、用語としては統一性を欠いていた部分がありましたので、この機会に訂正しました。ただし、「苞」の漢字は「包」にしておきます。
投稿: そよかぜ | 2007年9月30日 (日) 16時12分
ありがとうございました。
用語が分からないと何を言っているのか混乱してしまいます。これからもよろしくお願いします。
あと,名前はさんを付けないでいいです。
投稿: kuwachan | 2007年9月30日 (日) 19時08分
ネコジャラシもなんと奥が深いですね。
散歩途中にも確かに3種類、見っけ・・・
じゃぁ、どれがどれですか?と質問されれば
???????
でもね、確かにじっと見つめるようにはなりました。通りすがりに・・・ですが。
でもね、肉眼では見れないのだから・・・
と、言われれば、写真をアタマに焼き付けて想像するしかないかな・・・・・
投稿: わんちゃん | 2007年9月30日 (日) 22時11分
わんちゃん、顔が分からなくても知人は遠くからでも分かるように、3種類を雰囲気で区別できれば、たぶんそれで正しく区別できていると思います。
記事は、小穂「も」ちゃんと違いがありますよ、ということを書いただけですから。
投稿: そよかぜ | 2007年9月30日 (日) 22時47分
最近のこと、エノコログサの仲間を撮ったんですが、さて・・・っと見ると3種にわけられなくなってしまいました(7年も経っているのに・・・)のでリンクお願いしました。
投稿: わんちゃん | 2014年10月 9日 (木) 13時32分
上にも書いたように、生長の悪いものなど特別なもの以外は、小穂を見なくても、ほとんど姿だけで区別はできますよ。
リンクは了解です。
投稿: そよかぜ | 2014年10月 9日 (木) 22時01分