クマゼミの抜け殻の白い糸の正体は?
(今日の写真も全て、写真をクリックすると拡大できます)
クマゼミでなくてもいいのですが、今日はセミの抜け殻について。 というのは、「そよかぜBBS」で、セミの抜け殻の割れ目から見えている白い糸状のものは何かという質問をいただきました。
上の写真は真横から撮っていますので、脱皮時の割れ目がよく写っていませんが、背中側から白い糸の束のようなものが伸びていて、断ち切られたようになっています。 皆さんはこれは何だと思われますか?
これに答える前に、予備知識を2つ持っていてほしいと思います。
① 「体表」について
ご存知のように、昆虫は外骨格です。 つまり、私たちの体の内部にあるような骨はなく、体表が硬くなっていて体の形を保っています。 でもこれでは成長できませんから、硬くなった「体表」を脱ぎ捨てます。 これが「脱皮」ですね。 上の写真、透明な眼の表面も、きれいに脱いでいます。
今、簡単に「体表」と表現しましたが、案外難しいものです。 皆さんは自分の体の表面が分かりますか?
鼻の頭から出発して、口を開けて、指で体の表面を下になぞってみてください。 口の中の表面は体内ですか? 体表ですか?
胃カメラをのんだとき、胃カメラはどこに触れてどこを通るのでしょうか? 「体の表面」を突き破って「体内」に入っていくのでしょうか?
昆虫の体の体表はどこまででしょう?
② 昆虫の呼吸器について
昆虫はもちろん呼吸しています。 でも、肺はありません。 じっと見ていても胸が膨れたりへこんだりしていません。
じつは昆虫は“呼吸用の口”を、食事する口とは別に、体のあちこちにたくさん用意していて、「気門」(空気の出入り口、つまり門)と呼ばれています。 気門から取り込まれた空気は、気門から伸びる「気管」(空気の通る管)を通って、体の内部にまで運ばれ、体液とガス交換します。
昆虫のような小さな体では、酸素や二酸化炭素の拡散に任せておくだけで、十分です。 血液で体の隅々まで酸素を運ぼうとすれば、血液を流すエネルギーを消耗するだけです。
セミの抜け殻に見られる“白い糸”は何か、もうお分かりの人も多いと思いますが、確認していきましょう。
下の写真は、上の写真の抜け殻をハサミで左右に分け、内部を撮ったものです。 “白い糸”は、体のあちこちから、成虫の出た方向に向かって伸びています。
“白い糸”の“出発点”はどこでしょうか? このままでは分かりにくいのですが、“白い糸”は触れると、簡単にポキポキと折れてしまいます(上の写真も、あちこち折れかかっています)。
そこで、抜け殻を熱湯で柔かくして、“白い糸”をほぐして写したのが下の写真です。 “白い糸”の出発点が分かり易いように、抜け殻を逆さにし、腹側がよく写るようにしています。
“白い糸”のスタート位置は、気門のある場所です。 腹部を例に、もう一度、抜け殻の外側から見てみましょう(下の写真)。 白く写っているのが気門です(他にも光の反射で白くなっているところもありますが・・・)。
もうお分かりだと思います。 白い糸は、気管の内側の「表面」です。 セミは気管という管の内側の表面まで、きれいに脱皮しているのです。
“白い糸”の“正体”が分った今となっては、この“白い糸”はセミの抜け殻に限って見られるものでないことは理解いただけるでしょう。 こちらの記事の写真では、オニヤンマの抜け殻の“白い糸”がきれいに写っています。
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コメント
なるほど!と思うと同時に意外でした・・・・白い筋のようなものは気管の脱皮ガラだったとは。
確かに昔から漠然と抜け殻の白い筋を見てはいましたが、何となく疑問に思うことすらしていませんでした。
そういえば腹部の下面からではなく脚の付け根辺りから見える白いものは何でしょう?
投稿: タロ | 2007年7月29日 (日) 22時54分
脚の付け根辺りの体節の境目付近からのものも気管だと思います。もちろん生体ではこのようにくっつきあわずに、気門からあちこちに広がっているのですが・・・
投稿: そよかぜ | 2007年7月29日 (日) 23時24分
おはようございます~~
たとえ抜け殻といえども、生身を解剖しているような錯覚に何回も襲われました
横にむけたりお腹を割ったり、やっぱり・・
でも、抜け殻なんやと安心しました。
眼まで抜け殻になるんですね・・・
神秘やなぁ・・・・
投稿: わんちゃん | 2007年7月30日 (月) 06時06分
わんちゃんのコメントで思ったんですが、この熱湯で柔かくして“糸”をたどるのは、学校で気管を理解するための実験教材として、おもしろいかもしれませんね。
投稿: そよかぜ | 2007年7月30日 (月) 23時07分
高校のころの生物の先生はステキな先生でした。
大好きな先生なのに生物の成績はトホホのまんまでした。
「熱湯で柔かくして“糸”をたどる」という実験は小、中、高、大のいずれの学年でお勉強するんでしょう?
投稿: わんちゃん | 2007年7月31日 (火) 00時41分
おはようございます♪
夏休み子供科学相談の先生に推薦したい!
くらいわかりやすい説明で
エフにも理解できました(?)
風の谷のナウシカでオウムの抜け殻が
出てきましたが眼の部分を
くり貫いたようでした(曖昧だなー)
全身脱ぐということはオウムは昆虫?
幼虫は蛹の時も眼を開けてるんですね
というか瞼がないのか!
眼も体表なんですね
脱皮って神秘的な行為だな~
投稿: エフ | 2007年7月31日 (火) 08時00分
わんちゃんへ
気管を調べる実験は、実験をどう位置づけるかで、いろんなところで使えるのではないかと思います。ただ、セミの抜け殻を人数分だけ確保するには工夫がいるでしょうけれど・・・
エフさんへ
映画の「風の谷のナウシカ」は、巨大な粘菌が登場することでもユニークで面白い映画で、私も見ましたが、「月間アニメージュ」に連載された原作の初めの部分だけを映画化したものでしたよね。
原作ではオウムは「王蟲」と表現されていたから、虫なのかな?
投稿: そよかぜ | 2007年8月 2日 (木) 00時32分
蝉の解剖、感動しました!
先日、子どもと蝉の羽化観察会にいき、そのあと、子どもと二人で抜け殻から出ている白い糸の正体を探して、このページにたどり着いたのですが、すごいですね。他のページもとっても素晴らしいです。
今年の夏は、蝉の分類と白い糸の正体を探す解剖が子どもの夏の自由研究になりそうです♪
投稿: がんママ | 2009年8月 7日 (金) 19時41分
がんママさん、ありがとうございます。
これからもコメントを寄せてくださいね。
投稿: そよかぜ | 2009年8月 8日 (土) 00時02分
蝉の抜け殻にキノコかカビでも生えているのかとてっきり思っており、まさか気管とは思いませんでした。
すっかり大人になって初めて知りました。ありがとうございました。
投稿: 妖 | 2009年8月27日 (木) 00時30分
このブログでは、身近なところの植物や虫たちなどのおもしろさを伝えることができたら、とおもっています。応援よろしくお願いします。
投稿: そよかぜ | 2009年8月27日 (木) 06時52分
最近,ヨコヅナサシガメの脱皮を観察していたら白い糸が見られました。以前この白い糸に関する記事を読んだのを思い出しました。
気管の脱皮殻と知りました。有難うございます。
投稿: itotonbosan | 2013年5月16日 (木) 16時53分
どの昆虫の脱皮殻にも“気管の脱皮殻”があると思いますが、とても小さな昆虫ではどうなんでしょうね。
投稿: そよかぜ | 2013年5月16日 (木) 22時29分
以前、白い状態の蝉に趣のある名前がつけられている記事を読んだのですが、忘れてしまい、探していてこちらにお邪魔させて頂きました。
白い糸もずっと気になっていた謎でした。大変興味深く拝見致し、感動しました。
毎年何回見ても羽化は素晴らしいと感じていますが、気管までとは、なおいっそうその造りに神秘性を感じます。
ありがとうございました。
投稿: もりちゃん | 2013年7月24日 (水) 14時30分
セミの羽化も、何度見ても感動しますね。
毎年夏になると、この記事がよく読まれているようで、左の「人気記事ランキング」にあがってきたりしています。
この記事は6年前に書いたもので、ずっと読み続けられているということは、とても嬉しいことです。
投稿: そよかぜ | 2013年7月24日 (水) 21時54分
別の昆虫のことを調べていて、偶然お邪魔したのですが、
子供が小さかった10年以上前からの疑問が、
お陰様で氷解しました!!
当時、かなり昆虫に詳しい方にも聞いたのですが、たしか、
「それはまだよくわかっていない」
というような答えで終わっていた気がします。
調べきれていなかったのか、
はたまたこの十数年の間に常識となったことなのか?
(いや、ひょっとするとこちらのそよかぜ様が先駆者!??)
二十歳をとうに過ぎた息子に説明すると感動していました(^o^)
どうもありがとうございました!
投稿: ぴっぴ | 2013年9月11日 (水) 11時02分
10年越しの疑問解消のお役に立てて、嬉しいです。
昆虫に詳しい人の多くは、違いを見分けることに力を注いでおられるのに対し、私はどちらかというと、どのように生活しているかに関心がありますので、そのあたりの違いではないでしょうか。
投稿: そよかぜ | 2013年9月11日 (水) 22時38分
初めまして。
蝉の抜け殻の白い糸が気になり、ググったらこちらへたどり着きました。
解剖(?)もとても興味深く、良く理解できました。ありがとうございます。
(*´∀`*)
投稿: 愛花 | 2015年8月26日 (水) 11時01分
コメントありがとうございます。
抜け殻は熱湯をかければ簡単に切れるようになりますから、ぜひ実物で確認してみてください。
投稿: そよかぜ | 2015年8月26日 (水) 20時52分
夏休みで我が家に遊びに来た小2の孫とセミの羽化を観察しました。白い糸みたいなのが抜け殻に残っているけれど、ちょうど脚が出てくるのと一緒に出てきたので、脚に履いていた長ソックスが脱げたみたいな感じでした。
そうブログに書いたら、呼吸器官ですよ~とコメントをくれた友人がいて、さっそく調べていて、このサイトにやってきました。
ご挨拶が後になりましたが、初めまして!
私のブログにこのページの説明をリンクさせていただきました。事後承諾で申し訳ありませんが、お許し下さい。
昆虫の世界、奥深いですねぇ。
投稿: felizmundo | 2016年8月 6日 (土) 09時51分
入り込めば入り込むほど奥が深くなるのはどの世界でも同じこと。
felizmundoさんは星の世界が中心なんですね。
リンクしていただくのは、このブログのPRにもつながりますし、大歓迎です。
コメントありがとうございました。
投稿: そよかぜ | 2016年8月 7日 (日) 07時39分
初めまして。
小学2年生の子を持つ母親です。
昨年、近所の子がセミの抜け殻を大量に採取していて、そのコレクションを見せてもらったとき、どれも背中から白い糸が出ているのに気づき、疑問に思っていました。
先月、子供との学校帰り、偶然羽化のために出てきたセミの幼虫を見つけ、自宅で羽化を観察したところ、足が抜けた後、件の白い糸が出てきたため、靴下状になっていたものが脱げて出たのかと思っていました。
夏休みに入り、せっかく感動的な羽化を観察したのだから自由研究に使おうと、写真を確認してみると、白い糸はどうも足と関係なさそうに思え、ネットで調べたところ、こちらのブログに行き当たりました。
まさか、気管だったとは思いもよらず…。
人間の口内の例え話も解りやすく、なるほど、という感じでした。
抜け殻の解剖方法まで知ることができ、とてもためになりました。
早速子供と解剖に取り組み、ただの観察に終わらない、素晴らしい自由研究に仕上げたいと思います!
一点困っているのが、子供の自由研究なので、ソースは図鑑や児童書を取り上げたいのですが、どの本を見ても(セミの羽化に特化した本ですら)白い糸や気管について書いていないことです。
もし何か良い本をご存じでしたら、ぜひご教示願いますm(_ _)m
長文失礼いたしました。
投稿: にあ | 2018年8月 4日 (土) 04時28分
にあさん、コメントありがとうございます。
残念ながら、図鑑は名前を調べるのがいちばんの目的で、いろんな昆虫に共通の話は書かれていないでしょうし、気管や昆虫の体の内部のことなどは小学校低学年の児童書には難しすぎるでしょうし、このような内容の書かれてある本は思いあたりません。
投稿: そよかぜ | 2018年8月 5日 (日) 21時23分